・・・こう言ってしまって、ついと出て行った。 こういう因縁があるので、閭は天台の国清寺をさして出かけるのである。 ―――――――――――― 全体世の中の人の、道とか宗教とかいうものに対する態度に三通りある。自分の職業に気を・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
・・・ふうん、おっ母さんはこんな物を拝んだのですかと云って、ついと立って掛物の前に行って、香炉に立ててある線香を引っこ抜くのだ。己はどうするかと思って見ていたよ。そうすると、兄きは線香の燃えている尖を不動様の目の所に追っ附けて焼き抜きゃがるのだ。・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・と云って、ついと起った。見送りに立つ暇もない。 この坊さんはいつでも飄然として来て飄然として去るのである。 風の音がひゅうと云う。竹が薬缶を持って、急須に湯を差しに来て、「上はすっかり晴れました」と云った。「もうお互に帰ろうじゃ・・・ 森鴎外 「独身」
・・・と云って、ついと部屋に帰った。そして将校行李の蓋を開けて、半切毛布に包んだ箱を出した。Havana の葉巻である。石田は平生天狗を呑んでいて、これならどんな田舎に行軍をしても、補充の出来ない事はないと云っている。偶には上等の葉巻を呑む。そし・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫