・・・子女が何かの事に付き母に語れば父にも亦これを語り、父の子に告ぐることは母も之を知り、母の話は父も亦知るようにして、非常なる場合の外は一切万事に秘密なく、家内恰も明放しにして、親子の間始めて円滑なる可し。是れは自分の意なれども父上には語る可ら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろうけれども、骨格逞しく精神たかく、半野生的東洋に光を注ぐ未来の担いてを養うにはそれだけで十分とは云い切れまいと思える。 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアル・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・何にも、心を注ぐすべない人が盲滅法に 恋をする。 夢中になって する――その心根は、いじらしい。 *或時には余り朗らかとも云えぬ情慾を混えた夫婦の 愛を経験して見ると親子・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 家庭からは引はなされ、自分の仕事にあくせくと追い廻されながら、せま苦しい只一室を巣として、注ぐべき愛をことごとく幽閉して過す毎日は、遠く故国に自分を待って居る、「彼の女性」に対して、云うばかりない懐しさを抱かせるでございましょう。・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ら、自分の生活の中で、一番守りたい点、一番成長させたい点、一番得て行きたい点、或はまた一番与えて行きたい点というものを、自分ではっきり見極わめ、そのことの為めには、まあどうでもよいことは、第一のものに次ぐものとして目安に置いて、中心を押して・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・ 苦笑したが、「全くね、若い時分には、立派な家に棲っている人を見ると、ああ羨しい、自分もどうかあんな家に住みたいと思ったもんだが、この頃は、まあ一体こんな家の後をどんな人が継ぐのだろう、と思うね、羨しくなんぞちっともない。却って変な・・・ 宮本百合子 「白い蚊帳」
・・・子供の時分ランプへ石油を注ぐ時使う金の道具があった。それを石油カンにさして細い針金を引っぱり石油をランプに汲み上げるときキューキュー一種の音を立てた。そっくりその通りではないが、それに似た音と、トン、トンと間を置く遠い音響が、自分の登ってい・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 同志鈴木清が『改造』に「火を継ぐもの」を書き、同志堀田昇一が『中央公論』に「モルヒネ」を書いている。また同志須井一は、「労働者源三」の続篇として「城砦」を『改造』に発表している。これらの諸作品についてはいずれ別の場所で改めてとりあげら・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・従って、当時の世界で、日本は確かに支那に次ぐ文化の先進性を持っていたのであった。ところが、肝腎の近代の黎明であるルネッサンス前後に日本の支配層が小さく安全に自分の権力を確保しようとして、厳しい鎖国政策を執ったために、ヨーロッパがその後急速に・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・出征軍人の見送り、出迎え、傷病兵慰問、官製婦人団体が組織する細々とした労働奉仕――例えば米の配給所の仕事を手伝うために、孔の明いた米袋を継ぐために集るとか、婦人会が地区別に工場へ手伝いに出るとか、陸軍病院へ洗い物、縫物などのために動員される・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫