・・・そこでみんなは、なるべくそっちを見ないふりをしながら、いっしょに砥石をひろったり、鶺鴒を追ったりして、発破のことなぞ、すこしも気がつかないふりをしていました。 すると向こうの淵の岸では、下流の坑夫をしていた庄助が、しばらくあちこち見まわ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・ ツツと彼方の端から順々に押して来るので、此方の端のは、止り木の上で片脚を幼く踏張り、頸を曲げて身を支えている。それでもかなわなくなれば、構わない。彼はさっと立って頭の上から真中に割り込み、また自分で、ツツ、ツツと仲間の方によって行くの・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・ 波ともいわれない水の襞が、あちらの岸からこちらの岸へと寄せて来る毎に、まだ生え換らない葦が控え目がちにサヤサヤ……サヤサヤ……と戦ぎ、フト飛び立った鶺鴒が小波の影を追うように、スーイスーイと身を翻す。 ところどころ崩れ落ちて、水に・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫