・・・よってこのたびはまた、社中申合わせ、汐留奥平侯の屋鋪うちにあきたる長屋を借用し、かりに義塾出張の講堂となし、生徒の人員を限らず、教授の行届くだけ、つとめて初学の人を導かんとするに決せり。日本国中の人、商工農士の差別なく、洋学に志あらん者は来・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・余輩もとよりこの徳の量を減ぜんというに非ず。勉めて智の不足を足して、すでにあまりある徳の量にひとしからしめ、もって文明の度をいっそうの高きに置かんと欲するなり。ゆえに今の儒者も道徳の一味に安んずることなくして、勉て智学に志し、智徳その平均を・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 今、話してるグラフィーラとドミトリーのところへ、インガが入って来た。つとめて落付いた顔つきで、快活にインガは云った。「すっかりうまく落つきましたか? 何て簡単なんだろう。素晴らしい!」 率直にグラフィーラが遮った。「私は自・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・米子さんは、国民学校へつとめて病夫と自分の生活をささえ、大町氏の最後までかわることない真心をかたむけつくした。 大町さんは、御良人の葬儀がおわるとほとんどすぐ上京して来た。そして、「ほんとうに、しばらく……」と力をこめていって、あとは何・・・ 宮本百合子 「大町米子さんのこと」
・・・一つの民族の社会と文学の健全にとっては、少数の西欧文学精神のうけつぎてが、自国の文学について劣等感に支配されつつ、翻訳文学であるならば、つとめてその優性をひき出すとしても、多くプラスするところはない。中国の文学的教養の大きい部分がフランス文・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・事務員では何年つとめていても技術がつかない。その自動車会社がしっかりしているので目前の月給は悪くないのであったが、小枝子は或る時不図そのことに気がつくと不安になって、新劇の或る女優の後援会で知りあった多喜子のところへ洋裁を習いに来はじめたの・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
出典:青空文庫