・・・一方ではまた、審査する方が濫造の世評を顧慮して審査の標準を高め、上記の比率を低下させるようにするかも知れない。しかし比率を半分に切り下げても、研究の数が四倍になれば、博士及第者の数は二倍になるのは明白な勘定であろう。 こういう風に考えて・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・パリからロンドンへ渡ってそこで日本からの送金を受取るはずになっており、従ってパリ滞在中は財布の内圧が極度に低下していたので特に煙草の専売に好感を有ち損なったのであろう。マッチも高かったと思うが、それよりもマッチのフランス語を教わって来るのを・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・媚びず怒らず詐らず、しかも鷹揚に食品定価の差等について説明する、一方ではあっさりとタオルの手落ちを謝しているようであった。 しかし悲しいことにはこのたぶん七十歳に遠くはないと思われる老人には今日が一九三五年であることの自覚が鮮明でないら・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・そうして月々十一円ずつ郷里からもらっている学費のうちからひどい工面をして定価九円のヴァイオリンを買うに至るまでのいきさつがあったのであるが、これは先生に関係のない余談であるからここには略する。とにかく自分がこの楽器をいじるようになったそもそ・・・ 寺田寅彦 「田丸先生の追憶」
・・・この現象については先年わが国のある学術雑誌で気象学上から論じた人があって、その所説によると旋風の中では気圧がはなはだしく低下するために皮膚が裂けるのであろうと説明してあったように記憶するが、この説は物理学者には少しふに落ちない。たと・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ この日に限って、こうまで目立ってたくさんにいっせいにはじけたというのは、数日来の晴天でいいかげん乾燥していたのが、この日さらに特別な好晴で湿度の低下したために、多数の実がほぼ一様な極限の乾燥度に達したためであろうと思われた。 それ・・・ 寺田寅彦 「藤の実」
・・・それでいつか放送局でラジオ相談所として推薦した本郷の某ラジオ屋へ試みに修繕に出したら、今度は断然桁ちがいに感度を低下してしまって、もう拡声器では聞かれなくて、テレフォンでやっと聞こえるようになってしまった。機械を調べてみると、何とかいうあの・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・ もう一度このへんの雪線が少しばかり低下して崑崙の氷河が発達すると、このへんの砂漠がいつか肥沃の地に変わってやがて世界文化の集合地になるかもしれない。 その時に日本はどうなるか。欧米はどうなるか。これはむつかしい問題である。しかしと・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・もっとも低下していた昭和七年頃に比べると遙かに上っているが、男と女との差は埋められていないのである。 婦人の性の本来は生殖に重点をおかれているのであるから、社会労働は、常に男の補助の範囲であるのが自然であり、従って賃銀も、いわゆる世帯主・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・そのために製造したバタの品質が低下する。上ナザロフ村にもう一つバタ工場がある。そこの建物はひどい有様だ。扉はこわれている。寒くて働けぬ。この間支配人はクラスノヤルスク村へ牛乳買上決算に出かけた。そこで彼は三昼夜べろべろにのんだくれ、・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫