・・・検事の論告は暁子が母性を失っている、母たる資格を持たぬ女であると云う事から二年を求刑し、母性の典型として山本有三氏の小説「女の一生」を例に引きました。公判廷で検事が文学作品を例に論告を進めたと云う事は珍しい事で、人間らしい潤いを公判廷に与え・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・そのものを主役として前面へ押し出され「従来主人公だった人間が却って添景にまで後退するという行き方の小説も試みられてもいいように思う。歴史小説に於てより高い観点が要求されるとき制約のなかで最も留意すべきものはこの時間的及び空間的なものではある・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・こんなことも、××屋主人にとっての何と天恵であろう! この宿には一年以上滞在する客が珍しくないということだ。本当に、活動から遠のく不安さえ感じなかったら、この自然とともに根気よく、一年でも二年でも落付いていられるだろう。硫黄泉のききめばかり・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・普通の東京住いの市民などは見たことないような桜花爛漫の美を眺めたが、点景人物として映されている日本の女はどれも皆特別仕立ての日本髷と、特別仕立てに誇張された歩きぶりとである。花の中なる花の姿で全篇が終っている。私は身なりよい人々の間にはさま・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・の中に、「或る所まで行った人が或る本を読むと天啓にふれた様な気のする時はある。と云う事があったがそれは真理である。 偉大な人の作品に触れて感激出来るのは、その著者が彼の手と頭を以て表わした様々の精神作用の根元にさかのぼり・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
出典:青空文庫