・・・ここは天子さんのとこでそんな警部や何かのとこじゃないんだい。ずうっと奥へ行こうよ。」 私もにわかに面白くなりました。「おい、東北長官というものを見たいな。どんな顔だろう。」「鬚もめがねもあるのさ。先頃来た大臣だってそうだ。」・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
・・・而して彼女の天使の如き純潔何時までも地の栄たれ光たれ。直かれ。優しかれ。美しかれ。神よ、余の弱きを支へ給へ。余をして汝の卑きながら忠実なる僕たらしめ給へ。若輩は徒事に趨るもの多し。願くば余を其道より引き戻し給へ。余は彼女を恋せず。彼女は依然・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・もし作者が一小学教師の煩悶、反逆を、野蛮な封建的絶対主義的抑圧と闘う労働者農民の立場に立って把握したならば、当然天使的な無邪気な子供というブルジョア的観念化からも救われ、佐田のイデオロギー的飛躍と実践とは、もっと質実な、納得のゆけるものとし・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・はじめから純潔は、天使的なものなんかではなかったのだ。男に対する女の性の純潔などという局限されたものでもなかった。マグダラのマリアの物語がこのことを示している。マグダラのマリアは、迫害されながら、迫害するものの欲望のみたしてとして生きる売笑・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・そして、ストラスナーヤ僧院の城砦風な正面外壁へ、シルク・ハットをかぶった怪物的キャピタリストに五色の手綱で操縦される法王と天使と僧侶との諷刺人形をつり上げ、ステッキをついた外国の散歩者の目をみはらせればよい。――ところで、 一寸、――こ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ ねーえ と引っぱってというが如し だに おいでた だかね 居ますんね〔欄外に〕ジンゲル Roll accident adapt angel そんな字が見える 天使、天子と書いてある。細い、くろ豆のような女・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・けれども学校では同じ位にいじめられて居たけれども、「何んだい、天子様の御前で弾いて見せるぞ」 涙をこぼしながらそう云って居た。 家にかえるとすぐ誰が居ても斯う云って居た。「ネエ母ちゃん、芸人だって偉いんだネー、天子様の前でだ・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・京都には、かつてわが国を無階級で自由な一国に統一して合理的な政治によって万民をうるおした聖天子の末裔があらせられる。そのむかしの自由な日本はこの聖天子を幕府とおきかえることによって再生する。」この一文をよむわれらの脳裏に愛郷塾が髣髴し、社会・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・私の頭の上にはオライオン星座が、讃歌を唱う天使の群れのようににぎやかに快活にまたたいている。人間を思わせる燈火、物音、その他のものはどこにも見えない。しかしすべてが生きている。静寂の内に充ちわたった愛と力。私は動悸の高まるのを覚えた。私は嬉・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫