・・・この身分感は、こんにち肉体文学はじめ世相のいたるところにある斜陽族趣味にまで投影して来ているのである。 日本の大学、なかでも帝大といわれた帝国大学は、明治以来のそういう日本的な伝統のなかで、どこよりもふるい力に影響されていたところではな・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・ 四角い電燈の様なもののささやかな灯影が淋しい露のじめじめした里道をゆれて行くのを見ると今更やるせない気持になって口の大きい気の強い小さい妹の姿を思いうかべながら大きな炉の火をのろのろとなおしたりして居た。 九時頃だったけれ共もう寝・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・そして氏の好みは、過去からの時代性をニュアンスとして持ち、現代の時代性の一面の投影をうけ余り遠く古来の人情、情誼、拳で払う男の涙の領域から勇飛していない。氏のこの感情のありようと現代の或る小市民の感傷とは互に絡みあって最近の尾崎氏の作品に、・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・流転して止む事ない心の微妙な投影は、其を洞察しつつ、理解しつつ愛に満ちて統御する叡智の高度に準じて価値つけられますでしょう。認識の拡張は人類に冠を授けます。 然し認識の内容は多くの未知を、或は未完成の存在をも、今日の私共の裡に承認する筈・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・彼自身が後年自分の前に空間と自己自らの熱意の投影しか見なかったと告白していることは、よく彼の作家的現実を説明している。ジイドは、作品そのものよりむしろその作品に至るまでの彼の内的過程が注目と興味とを牽く特別な作家の一人なのである。 一九・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・れて来ているし歴史小説の分野では、時代と環境との客観的意義の評価を見直すことでは前進しつつ、そこにゆきかける時代の人間の積極なものとの関係の分析と意義とを従の関係におくことではやはり現代の文学の敗北の投影がみられる。そして、評論の面では、誤・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・しかし、戦争挑発をつづけてその恐怖の投影のもとに新たな拡張を実現しようとしている国内国外の力にとって、日本の人民が心から戦争をきらい、戦争にかり立てられることを拒んでいるその感情を、今日行われている戦争挑発の全過程に対する抵抗として結集し、・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・魯迅の大きい、嘘というもののない人間及び文学者としての投影のなかから、既に、魯迅自身は歩まなかった新しい中国文学の一歩がふみ出されている。丁度ゴーリキイの巨大な懐の中から、夥しい民衆の文学創造力が、かもし出されて、今日のソヴェト文学をゆたか・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・屋敷町の単純な色と空気の中で人いきれと灯影でポーッとはにかんで居る様な向うの空を見てその下に居る人達の風、町の様子を想像して居る。あの、夜あるくにふさわしい様な――どこまでこのまんま歩いて行ってもその先々にキットたのしい事が待ちかまえて居る・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ここに、日本の文化の深奥において、思想性はいまだ確立されていなかった過去の悲劇的な投影があるのである。 あらゆる時期と場合にあらゆる変形をもって、合理的な判断を守り、沈黙することは決して思索し、批判することをやめることではない。思想は、・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
出典:青空文庫