・・・それが現われた上での量的討究の必要と結果の意義の大切なことはもとより言うまでもないことであるが、第一義たる質的発見は一度、しかしてただ一度選ばれたる人によってのみなされる。質的に間違った仮定の上に量的には正しい考究をいくら積み上げても科学の・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・さまで優劣の階段を設くる必要なき作品に対して、国家的代表者の権威と自信とを以て、敢て上下の等級を天下に宣告して憚らざるさえあるに、文明の趨勢と教化の均霑とより来る集合団体の努力を無視して、全部に与うべきはずの報酬を、強いて個人の頭上に落さん・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 我が日本国にても、政府の官職はただ在職中の等級のみにて、このほかに位階勲章の制を立てず、尊卑はただ政府中、官吏相互の等級にして、かつて政府外に通用せざるものなれば、私の会社中に役員の等級あるが如くにして、他に影響すること少なからんとい・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・総員二十名を出でず。等級によりて月給同じからず。多きは七十両、少なきは十五両乃至二十両、平均一人につき二十五両に過ぎず。二十人にて一月五百両なり。官の費用少くして事務よく整うものというべし。 明治五年申四月学校出版の表によるに、中小学校・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・の批判で燃えていたとき、秩序をもってその問題を討究した研究会は、ほんの数えるしかなかった。この事実はラップを驚ろかした。 文学研究会の任務は、先ず職場にいる研究会員の従来のような余技的な文学興味への引こもりをやめさせて、工場内の工場新聞・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・レタリア文学運動において絶えず具体的に高められ強められてゆかなければならない芸術における階級性の問題も、今は、過去の成果と教訓によってよかれあしかれ、文学の独自的な性質をいかし個々の作品に即した方法で討究されるところに来ている。 さ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・ 二人の間にはそれから満鉄傭人のこまかい等級差別について話がすすんだらしく、カーキ色が、「二円、三円と一つずつ上って六円までつくからね」と云った。「ふーむ、それが大きいですね」「結局おんなじこってすよ、どこへ行ったって残・・・ 宮本百合子 「東京へ近づく一時間」
・・・ 第一、プロレタリア文学の世界的陣営で、芸術創作上の弁証法的方法の問題が、どの位熱心に、誠意をもって討究されているか。作品中に具体化されているか。その見易い事実さえも筆者は無視しているではないか。残念ながらこの公開状は階級闘争における、・・・ 宮本百合子 「反動ジャーナリズムのチェーン・ストア」
四十篇の原稿のなかから新日本文学会の書記局で予選された二十篇をよんだ。そのどれもが、それぞれかかれた環境においてのねうちをもっていて、等級をつけるのがむずかしかった。同時にそのことはとびぬけた作品はなかったことも意味し結局・・・ 宮本百合子 「『労働戦線』小説選後評」
・・・ 鎖国は、外からの刺戟を排除したという意味で、日本の不幸となったに相違ないが、しかしそれよりも一層大きい不幸は、国内で自由な討究の精神を圧迫し、保守的反動的な偏狭な精神を跋扈せしめたということである。慶長から元禄へかけて、すなわち十七世・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫