・・・おまえたちはこどもだけれども、こういうときには立派にみんなのお役にたつだろうなあ。いいか。おまえはね、この森をはいって行ってアルキル中佐どのにお目にかかる。それからおまえはうんと走って陸地測量部まで行くんだ。そして二人ともこう言うんだ。北緯・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・きょう、またおどろくような迅さで、日本の人民生活と文化とが高波にさらされようとしているとき、文学を文学として守るためにも、この著者の諸評論は丈夫な足がかりを与えるものである。〔一九四八年六月〕・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・鳩の卵を抱いているとき、卵と白墨の角をしたのと取り換えて置くと、やはりその白墨を抱いている。目的は余所になって、手段だけが実行せられる。塵を取るためとは思わずに、はたくためにはたくのである。 尤もこの女中は、本能的掃除をしても、「舌の戦・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・彼はいつも子供の宿ったときに限ってするように、また今日も五号の部屋の前を往ったり来たりし始めた。次には小さな声で歌を唄った。暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと、婦人がひとり起きて来て寝巻のまま障子を開けた。「坊ちゃんはいい子ですね。あ・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・ 中世の末にヨーロッパの航海者たちが初めてアフリカの西海岸や東海岸を訪れたときには、彼らはそこに驚くべく立派な文化を見いだしたのであった。当時のカピタンたちの語るところによると、初めてギネア湾にはいってワイダあたりで上陸した時には、・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫