・・・小さい道をへだてて、バラックのトタン屋根が暑い日をてりかえし、スダレの奥から大きな声でラジオのニュースが響いている。「――して華々しい戦果をおさめました」 東京に、またこんなラジオがきこえはじめた。広島を平和都市に!長崎・・・ 宮本百合子 「いまわれわれのしなければならないこと」
・・・十分か十五分、級の違う他の子供と一緒に傍のトタン塀によりかかったり、門の中を覗いたり、地面に踞んだりして、小使が出て来るのを待っている。外から小使部屋が見えたように思う。その時分、小使は、特に朝、権威をもって楽しそうに見えた。三四人、彼方此・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ その途端に燈火はふっと消えて跡へは闇が行きわたり、燃えさした跡の火皿がしばらくは一人で晃々。 下 夜は根城を明け渡した。竹藪に伏勢を張ッている村雀はあらたに軍議を開き初め、閨の隙間から斫り込んで来る暁の光は次第・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫