・・・治安維持法が廃止され、憲兵・特高制度が廃止されたということは、直接治安維持法の対象とされていた民主的な思想の人々を解放したばかりではなかった。生きのこった日本の全人民が、はじめて幾重もの口かせ、手かせからときはなされたことを意味した。ニッポ・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・そのなかの一人である安倍源基は特高課長、警視総監、内務大臣と出世したが、その立身の一段一段は小林多喜二の血に染められ岩田義道の命をふみ台にしている。天羽英二は情報局長としてあんなに人民の言論と思想、文化の自由を根こそぎ刈った。 これらの・・・ 宮本百合子 「事実にたって」
・・・民主日本の航路から大衆の精悍さを虚脱させるために空腹時のエロティシズムは特効がある。文学における大衆性の本質は、決して大衆の一部にある卑俗性ではない。幾千万の私たち大衆が、つつましく名もない生涯を賭しながら、自身の卑俗さともたたかいながら、・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
・・・ 逸見重雄氏は、野呂を売って警視庁に捕えさせたスパイの調査に努力した当時の党中央委員の一人であった。特高が中央委員であった大泉兼蔵その他どっさりのスパイを、組織の全機構に亙って入りこませ、様々の破廉恥的な摘発を行わせ、共産党を民衆の前に・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・地方にも都会にも様々の形で各機構に入りこんでいる右翼くずれ、特高の変形は、人民の統一行動を攪乱するのが唯一の任務であるから、一見勇敢な闘士めいて、どういう挑発をしないものでもない。もし人民が、現在日本政府は武力をもっていないという公の建前を・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・治安維持法時代から特高として働いてきたツゲ事務官は、尾崎秀実の例をひいて「彼は遂に刑場の露と消えた。彼は真実に生きていた。最後まで真実を主張して自分の真理に生きた。そうして彼は牢獄において手記を残して行った。お前は小説に書かれるか。そこまで・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・外へも出られないというのが本当ならどうして小説が書けている、と特高の論法になるかもしれない。 わたしにどんな一つの特権があるのではない。わたしはわたしとして基本的な人間の権利を明らかにしているだけである。むごさという感覚をとりおとした人・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・いわゆる人民が上官から憲兵から特高からその肉体の上にくらったビンタとちがったビンタが、文学者のために用意されていたでしょうか。どんなちがった監獄に作家が入れられたというのでしょう。 谷川徹三の「文化平衡論」という主張が戦争拡大する前後の・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・警視庁の特高課長であった毛利基が主事をしていた。毛利基は宮本の関係した党内スパイ摘発事件のとき、スパイを潜入させその活動を指導するための主役の一人であった。はじめて保護観察所によばれたとき、この毛利が鉈豆煙管をさげて出てきて、「どうだね・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・安倍源基は、警視庁の特高部長でした。それから人民抑圧の手柄によって、警視総監となり、内務大臣となり、さいごに企画院にゆきました。彼の出世の一段階ごとに治安維持法の血がこくしたたっています。小林多喜二を拷問で殺したのも、安倍源基とその部下の仕・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫