・・・それともどういうわけか知ら。わたしもよく分からないわ。一体わたしとお前さんと知合いになった初めのことを思って見ると変だわ。なんだかお前さんが気になってね。ちっとも目が放されないような気がしたのだわ。往く時も帰る時も、なりたけ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・というのであります。どういうものでしょうか。やはり、之は、大事に筐底深く蔵して置いたほうが、よかったのでは無かったかと、私は、あのお洒落な粋紳士の兄のために、いまになって、そう思うのでありますが、当時は、私は兄の徹底したビュルレスクを尊敬し・・・ 太宰治 「兄たち」
一 この間日本へ立寄ったバートランド・ラッセルが、「今世界中で一番えらい人間はアインシュタインとレニンだ」というような意味の事を誰かに話したそうである。この「えらい」というのがどういう意味のえらいのであるかが聞きたいのであったが・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・と、彼はそれをどういうふうに言い現わしていいか解らないという調子であった。 が、とにかく彼らは条件なしの幸福児ということはできないのかもしれなかった。 私は軽い焦燥を感じたが、同時に雪江に対する憐愍を感じないわけにはいかなかった。・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・ それはどういうところだろう? くらい道を家へ歩きながら想像している。しかし三吉は、高島にむかって、とうとう返辞をしなかった。この不安は、あのハンチングをかぶった学生のボルに話してもわからない。三吉がみたボルは、まだ学生ばかりであったが、三・・・ 徳永直 「白い道」
・・・じ専制国でありながら支那や土耳古のように金と力がない故万代不易の宏大なる建築も出来ず、荒凉たる沙漠や原野がないために、孔子、釈迦、基督などの考え出したような宗教も哲学もなく、また同じ暖い海はありながらどういう訳か希臘のような芸術も作らずにし・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・一国の歴史は人間の歴史で、人間の歴史はあらゆる能力の活動を含んでいるのだから政治に軍事に宗教に経済に各方面にわたって一望したらどういう頼母しい回顧が出来ないとも限るまいが、とくに余に密接の関係ある部門、即ち文学だけでいうと、殆んど過去から得・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・またどういう機会からであったか、今は思い出せないが、私は早くからメーン・ドゥ・ビランに非常に興味を有っていた。しかし彼自身の著書を手に入れることは、困難であった。京都大学へ来てから、学校へ、ナヴィルの出版した Oeuvres indites・・・ 西田幾多郎 「フランス哲学についての感想」
・・・食べに来るわけではなく、どういう考えか知らないが、白いものの上に坐るのである。腰かけるのかも知れない。それとも腹ばいになるのか。とにかく、船の上から軽く糸をあやつっていると、タコが来た気配は手にこたえる。そこで、サーッと引くと、タコはカギに・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・そうじゃなくて、自分の頭に、当時の日本の青年男女の傾向をぼんやりと抽象的に有っていて、それを具体化して行くには、どういう風の形を取ったらよかろうか。といろいろ工夫をする場合に、誰か余所で会った人とか、自分の予て知ってる者とかの中で、稍々自分・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
出典:青空文庫