・・・Yの父が死んだ時、友人同士が各自に一円ずつの香奠を送るというのも面倒だから、連名にして送ろうではないかという相談になってその時Kが「小田も入れといてやろうじゃないか、斯ういう場合なんだからね、小田も可愛相だよ」斯う云って、彼の名をも書き加え・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・』と首を出したのは江藤という画家である、時田よりは四つ五つ年下の、これもどこか変物らしい顔つき、語調と体度とが時田よりも快活らしいばかり、共に青山御家人の息子で小供の時から親の代からの朋輩同士である。 時田は朱筆を投げやって仰向けになり・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・若い女ばかり集まる処だからお秀の性質でもまさかに寝衣同様の衣服は着てゆかれず、二三枚の単物は皆な質物と成っているし、これには殆ど当惑したお富は流石女同志だけ初めから気が付いていた。お秀の当惑の色を見て、「気に障えちゃいけないことよ、あの・・・ 国木田独歩 「二少女」
・・・自分では理由をつけて俺等は、多くの屍をふみ越して、その向うへ進んで行かなければならない。同志の屍を踏みこして。それから敵の屍をふみこして、と。だが、彼が云うようなことはあてになったもんじゃない。 彼は、勉強家でもない。律儀な、几帳面な男・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・そして、新しく這入ろうとする兵営の生活に対する不安と、あとに残してきた、工場や農村の同志、生活におびやかされる一家のことなどを、なつかしく想いかえす。心配する。 兵営は暗く、新しく着せられるカーキ色の羅紗の服は固ッくるしい。若ものたちは・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・弟が旅順口包囲軍に加わって戦争に出たのを歎いて歌ったものである。同氏のほかの短歌や詩は、恋だとか、何だとかをヒネくって、技巧を弄し、吾々は一体虫が好かんものである。吾々には、ひとつもふれてきない。が、「君死にたまふことなかれ」という詩だけは・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・小角は道士羽客の流にも大日本史などでは扱われているが、小角の事はすべて小角死して二百年ばかりになって聖宝が出た頃からいろいろ取囃されたもので、その間に二百年の空隙があるから、聖宝の偉大なことやその道としたところはおよそ認められるが、小角が如・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・敵に下ぐる頭ではござらぬ、味方同士の、兄弟の中ではござらぬか。」と叱すれば、皆々同じく頭を下げて、「杉原太郎兵衛、御願い申す。」「斎藤九郎、御願い申す。」「貴志ノ余一郎、御願い申す。」「宮崎剛蔵……」「安見宅摩も御願・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・我等同志がためになり申す。……黙然として居らるるは……」「不承知と申したら何となさる。」「ナニ。いや、不承知と申さるる筈はござるまい。と存じてこそ是の如く物を申したれ。真実、たって御不承知か。」「臙脂屋を捻り潰しなさらねばなりま・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・これは、だが、これまでゞ何百人の同志を運んだ車だろう。俺は自分の身のまわりを見、天井を見、スプリングを揺すってみた。 六十日目に始めてみる街、そしてこれから少なくとも二年間は見ることのない街、――俺は自動車の両側から、どんなものでも一つ・・・ 小林多喜二 「独房」
出典:青空文庫