・・・其ノ後慶応年間ニ至ツテ、松葉屋某ナル者魁主トナリ、遂ニ旧府ノ許可ヲ禀クルヤ、同志厠与ニ助ケテ以テ稍ク二三ノ楼ヲ営ム。其ノ創立ノ妓楼トイフモノハ則曰ク松葉屋、曰ク大黒屋、曰ク小川屋曰ク吉田屋曰ク金邑屋此ノ他局店ハ曰ク三福長屋、曰ク恵比寿長屋等・・・ 永井荷風 「上野」
・・・「同志! 突破しろ……」 少年が鋭く叫んだ。と同時に彼の足は小荷物台から攫われて、尻や背中でゴツンゴツンと調子をとりながら、コンクリートの上へ引きずり下された。 汽車は静に動き出した。両方の乗降口に立っていた制服巡査は飛び下りた・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・不実同士揃ッてやがるよ。平田さん、私がそんなに怖いの。執ッ着きゃしませんからね、安心しておいでなさいよ。小万さん、注いでおくれ」と、吉里は猪口を出したが、「小杯ッて面倒くさいね」と傍にあッた湯呑みと取り替え、「満々注いでおくれよ」「そろ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・世間普通の例に男同士の争論喧嘩は珍らしからねど、其男子が婦人に対して争うことは稀なり。是れも男子の自から慎しむには非ずして、実は婦人の柔和温順、何処となく犯す可らざるものあるが故ならん。啻に男女の間のみならず、男子と男子との争にも婦人の仲裁・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・よって今、その所見の大略を記して、天下同志の人にしめすこと左の如し。 京都の学校は明治二年より基を開きしものにて、目今、中学校と名る者四所、小学校と名るもの六十四所あり。 市中を六十四区に分て学校の区分となせしは、かの西洋にていわゆ・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・一 女子の結婚、就中その他家に嫁したる結婚の後、その家の舅姑に事うるの法如何は古来世論の喋々する所にして、又実際に於ても女同士なる姑と嫁との間に衝突の起るは珍らしからず。仮令い或は表面に衝突せざるも、内心相互に含む所ありて打解けざるは、・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・その他動詞、助動詞、形容詞にも蕪村ならでは用いざる語あり。鮓を圧す石上に詩を題すべく緑子の頭巾眉深きいとほしみ大矢数弓師親子も参りたる時鳥歌よむ遊女聞ゆなる麻刈れと夕日此頃斜なる「たり」「なり」と言わずして「・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・はたしてこの戯言は同氏をして蕪村句集を得せしめ、余らまたこれを借り覧て大いに発明するところありたり。死馬の骨を五百金に買いたる喩も思い出されておかしかりき。これ実に数年前のことなり。しかしてこの談一たび世に伝わるや、俳人としての蕪村は多少の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・しかし仲間同志の悪口をいうたという事については、予は何処までも責任を帯びておる。元来悪口をつく事は善くない事であるが、去りとて陰でばかり悪口をついておるのはなお善くないと思う。其処で悪口は悪口としてさらけ出して見たのは善いが、そうなるとまた・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・僕等は竜じゃないんだけれども拝まれるとやっぱりうれしいからね、友だち同志にこにこしながらゆっくりゆっくり北の方へ走って行ったんだ。まったくサイクルホールは面白いよ。 それから逆サイクルホールというのもあるよ。これは高いところから、さっき・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
出典:青空文庫