・・・ジョバンニは、まるでどきどきして、頭をやけに振りました。するとほんとうに、そのきれいな野原中の青や橙や、いろいろかがやく三角標も、てんでに息をつくように、ちらちらゆれたり顫えたりしました。「ぼくはもう、すっかり天の野原に来た。」ジョバン・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・正直を云いますと私もこの時は少し胸がどきどきしました。さっそく又一台の赤自動車がやって来て小さな白い紙を撒いて行ったのです。 そのパンフレットを私たちはせわしく読みました。それには赤い字で斯う書いてあったのです。「ビジテリアン諸・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・巨きな桜の街路樹の下をあるいて行って、警察の赤い煉瓦造りの前に立ちましたら、さすがにわたくしもすこしどきどきしました。けれども何も悪いことはないのだからと、じぶんでじぶんをはげまして勢よく玄関の正面の受付にたずねました。「お呼びがありま・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・おれの胸までどきどき云いやがる。ふん。」 若い木霊はずんずん草をわたって行きました。 丘のかげに六本の柏の木が立っていました。風が来ましたのでその去年の枯れ葉はザラザラ鳴りました。 若い木霊はそっちへ行って高く叫びました。「・・・ 宮沢賢治 「若い木霊」
・・・ 妙にそわそわして胸がどきどきする。 母に笑われる。でも仕方がない。 花を折りに庭へ出て書斎の前の、低い小さな「□□(石」から足を踏みはずしてころぶ。 下らない事をしたものだと思うけれ共、急いたり、あんまり喜んだりするときっ・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・ 私は、すっかり上気せあがり、胸がどきどきしてよく眼が見えないようになった。母の心持が押しかぶさるようにこわく、苦しく、重く迫って来た。母が心の中で怒り、何故書けないのか、馬鹿さん、と思っているのはよくわかる。上手に書きたく、褒められた・・・ 宮本百合子 「雲母片」
・・・そこへ入るだけが、もう気分がどきどきする物珍しいことだ。庭に生えている木賊の恰好や色と云い、少しこわいような、秘密なような感情を起させる。積んである座布団に背を靠せて坐り、魔法の占いでもするように、私は例の百銭をとり出す。それを一つずつ、薄・・・ 宮本百合子 「百銭」
出典:青空文庫