・・・第一物理学を土台にして夫れより諸科専門の研究に及ぶ可し。之を喩えば日本の食物は米飯を本にし、西洋諸国はパンを本にして、然る後に副食物あるが如く、学問の大本は物理学なりと心得、先ず其大概を合点して後に銘々の好む所に従い勉む可きを勉む可し。極端・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・するとその人を先ず土台にしてタイプに仕上げる。勿論、その人の個性はあるが、それは捨てて了って、その人を純化してタイプにして行くと、タイプはノーションじゃなくて、具体的のものだから、それ、最初の目的が達せられるという訳だ。この意味からだと『浮・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ 短い月日の間に、はげしく推移する情勢に応じて書かれた一九三三年ごろの諸評論には、いそいで刻下に必要な階級文化のための土台ごしらえを堅めようとする著者のたたかいの気迫がみなぎっている。そのたたかいの気迫、抵抗の猛勇な精神は、その情勢の中・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ ソヴェト同盟における新しい内容での一夫一婦制の確立は、男女の日常生活に作用する社会関係全体が、彼ら自身の犠牲多い積年の努力で健康な土台の上に組み直されて始めて、現実の可能となったのであった。 日本の解放運動は、広く知られているとお・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 愛の躾は、社会に対する愛と識見の、よりひろい土台の上に立てられるべきであろうと思います。〔一九四六年四月〕 宮本百合子 「新しい躾」
・・・即ちかのようにが土台に横わっているのだね。」「まあ一寸待ってくれ給え。君は僕の事を饒舌る饒舌ると云うが、君が饒舌り出して来ると、駆足になるから、附いて行かれない。その、かのようにと云う怪物の正体も、少し見え掛っては来たが、まあ、茶でもも・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・で、戦争に勝つのはえらい大将やえらい参謀が勝たせるのではなくて、勇猛な兵卒が勝たせるのだとしてあれば、この観察の土台になっている個人主義を危険だとするのである。そんな風に穿鑿をすると同時に、老伯が素食をするのは、土地で好い牛肉が得られないか・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・あれは無政府主義の土台になっている。しかしあれは自我主義である。利己主義である。 利己主義は倫理上に排斥しなくてはならない。個人主義という広い名の下に、いろいろな思想を籠めておいて、それを排斥しようとするのは乱暴である。 無政府主義・・・ 森鴎外 「文芸の主義」
・・・「お前、酒桶からまくれ落って、土台もうわやや。お母に頼んでくれよ。おらんのか?」「好え加減にしとけ。」 秋三は立ち上った。「おい、頼む頼む。お母に一寸云うてくれったら。」 秋三はそのまま黙って柴を担ごうとすると、「お・・・ 横光利一 「南北」
・・・彼は、「生の流転をはかなむ心持ちに纏絡する煩わしい感情から脱したい、乃至時々それから避けて休みたい、ある土台を得たい」という心を起こすのである。そうしてそれが、たとい時に彼を宗教へ向かわせるにしても、結局宗教芸術に現われた、「永久味」の味到・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫