・・・御蔭で幽霊の様な文学をやめて、もっと組織だったどっしりした研究をやろうと思い始めた。それから其方針で少しやって、全部の計画は日本でやり上げる積で西洋から帰って来ると、大学に教えてはどうかということだったので、そんならそうしようと言って大学に・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
・・・どうせ持っているものだから、先ずどっしりと、おろして、そう人の思わく通り急には動かない積りである。然し子規は又例の如く尻持たぬわが身につまされて、遠くから余の事を心配するといけないから、亡友に安心をさせる為め一言断って置く。 明治三十・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』中篇自序」
・・・彼の心の中にどっしりと腰を下して、彼に明確な針路を示したものは、社会主義の理論と、信念とであった。「ああ、行きゃしないよ。坊やと一緒に行くんだからね。些も心配する事なんかないよ。ね、だから寝ん寝するの、いい子だからね」「吉田君、・・・ 葉山嘉樹 「生爪を剥ぐ」
・・・そしてにやりと笑って、又どっしりと椅子へ座りました。それから例の鉄の棒を持ち直して、二番目のあま蛙の緑青いろの頭をこつんとたたいて云いました。「おいおい。起きるんだよ。勘定だ勘定だ。」「キーイ、キーイ、クワァ、ううい。もう一杯お呉れ・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・ 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の笠のような形に重ねられる手法、画面の中央を悠々とうねり流れている厚い白い水の曲折、鮮やかな緑青で、全く様式化されながらどっしりと、とどこおるもののない量感で据えられた山の姿、それらは、宗・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・退屈きわまる裁縫室の外には、ひろい廊下と木造ながらどっしりしたその廊下の柱列が並んでそういう柱列は、表側の上級生の教室のそとにもあった。日がよく当って、砂利まで日向の香いがするような冬のひる休み時間、五年生たちがその柱列のある廊下の下に多勢・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・背後にどっしりとした御守殿風の建物があった。大玄関にまばらな人かげが見える。それが、琴平の公会堂なのであった。 藪かげのこみちを歩きながら、この俗っぽい、商人の薄情な琴平に、こういう裏みちもある、ということをなつかしく感じた。慾とくをは・・・ 宮本百合子 「琴平」
・・・ 何々区ピオニェール分隊がどっしり重い金モールの分隊旗を先頭にクフミンストル・クラブの広間を行進して来た。 右、左! 右、左、止れ! 分列。中央から十二三歳のピオニェール少女がつかつかと演壇にのぼった。茶色の演壇上の赤い襟飾・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・ 書斎は、何処やらどっしりしたのが好きですけれども、客間食堂は、真個にくつろいだ、愉快な処にしたく思います。 気取って、金縁の椅子等を置いたのではなく、大きなやや古風なファイア・プレースでもあり、埋まってしまうような大椅子、長椅・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・太い鉄の鎖がどっしり石柱と石柱との間にたれ、わらが数本ちらばっている。ネ河は絶えずはやく流れ、音なくはやく流れている。―― 静かさはどうだ。 明けがた汽車の中で目をさましたとき日本女は、窓からもう一つ水の景色を見た。野原で草が茂って・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫