・・・ 北川三郎氏の訳による大系二冊は、努力の仕事であると思うが、本が大きくて机の上にどっしりとおいて読まなければならない不便があり、高価でもある。それに、この訳にはところどころに訳者插入の研究が自由にさしはさまれていてそのような研究に特別の・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・徳永さんの御都合で中絶した面もあるでしょうが、ともかくそれは中断されたままになりましたし、だいたい、評論にしろ、どうしても、どっしりと百枚二百枚というものをのせきることができません。薄い一冊の雑誌に、そうとう変化も与え、文学の各方面の話題に・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 白い石の正面大階段を登ると、どっしりした鉄の扉の片翼が開いている。入ったところはやはり白い滑らかな石をしきつめた大広間だ。天井から新式な大電燈が煌々と輝いて、今あんな原っぱの夜道を通って来たということが信じられぬような印象を与える。小・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ 自然で、俗気のみじんもない、どうとも云われずどっしりと人にせまって来る気持を持って居る小田原の名の海は、江の島附近の、のどかで快いとは云いながら軽々しい様子とまるで違う。 それで又、北国の名の海を見たら又小田原の海は軽々しい様子に・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・その頃女流の作家では、田村俊子、水野仙子、素木しづ子、などという人達が盛んに書いていて、そのうちでも素木さんは、どっしりした大きなものを持った人ではなかったけれども、いかにも女らしい繊細な感情と、異常に鋭い神経との、独特の境地を持った作家で・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・私共が振り捨てようとする過去の重荷は彼等の背中にも、重くどっしりと負わされて居るのではあるまいか。 お互は互に、我々の生活が如何那に不純であるかを知って居る。よく知って居る。 そして、其の醜い、其の固陋な障壁を破ろうとして、何時から・・・ 宮本百合子 「無題」
・・・笛の音は遠く遠く、羊を追う牧童の胸をまでそそるようにどっしりとして夕暮の闇をはいて居る木の間をくぐって遠く遠く、そのすぐわきに足をのばして白い靴のさきを見つめながら笛に気をとられて居たローズの目は段々に上を見つめて又その目は下に落ちて段々色・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・然し、その垂幕には、此世でまたと見られそうもない程素晴らしい繍がどっしりとしてありました。 そよりともしない黒地の闇の上には、右から左へ薄白く夢のような天の河が流れています。光った藁のような金星銀星その他無数の星屑が緑や青に閃きあってい・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
・・・主人はどっしりした体で、胡坐を掻いて、ちびりちびり酒を飲みながら、小川の表情を、睫毛の動くのをも見遁がさないように見ている。そのくせ顔は通訳あがりの方へ向けていて、笑談らしい、軽い調子で話し出した。「平山君はあの話をまだしらないのかい。まあ・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫