・・・が、大御所吉宗の内意を受けて、手負いと披露したまま駕籠で中の口から、平川口へ出て引きとらせた。公に死去の届が出たのは、二十一日の事である。 修理は、越中守が引きとった後で、すぐに水野監物に預けられた。これも中の口から、平川口へ、青網をか・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・……加うるに、紫玉が被いだ装束は、貴重なる宝物であるから、驚破と言わばさし掛けて濡らすまいための、鎌倉殿の内意であった。 ――さればこそ、このくらい、注意の役に立ったのはあるまい。―― あわれ、身のおき処がなくなって、紫玉の裾が法壇・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・その頃村山龍平の『国会新聞』てのがあって、幸田露伴と石橋忍月とが文芸部を担任していたが、仔細あって忍月が退社するので、その後任として私を物色して、村山の内意を受けて私の人物見届け役に来たのだそうだ。その時分緑雨は『国会新聞』の客員という資格・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・それを祝福する内意もあり、わずかではございますが、奉仕させていただきたく存じます。 その奉仕の品品が、入口の傍の硝子棚のなかに飾られている。赤い車海老はパセリの葉の蔭に憩い、ゆで卵を半分に切った断面には、青い寒天の「壽」という文字がハイ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・そうして、かかることについても、作家の人物月旦やめよ、という貴下の御叱正の内意がよく分るのですけれども私には言いぶんがあるのです。まだ、まだ、言いたいことがあると申し上げる所以なのです。いずれ書きます。どうぞからだを大事にして下さい。不文、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・勲功によって貴族に列せられようという内意があったが辞退したので、爵位はその夫人に授けられ、夫人からその一人息子の John James Struttに伝えられた。これが最初の Lord Rayleigh となった訳である。Rayleigh ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・ その日、初頼という方が、持って来た下すった香奠が、将校方から十五円、兵士一同から二十円……これは皆さんが各々の気心で下すったもので、兵士方は上官から御内意があって、一人につき二銭から三銭のがなれど、人数にすれば二十と云う金高になるとい・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・しかるに文部省の内意を取次いでくれた教頭が、それは先方の見込みなのだから、君の方で自分を評価する必要はない、ともかくも行った方が好かろうと云うので、私も絶対に反抗する理由もないから、命令通り英国へ行きました。しかし果せるかな何もする事がない・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・伝え聞く、箱館の五稜郭開城のとき、総督榎本氏より部下に内意を伝えて共に降参せんことを勧告せしに、一部分の人はこれを聞て大に怒り、元来今回の挙は戦勝を期したるにあらず、ただ武門の習として一死以て二百五十年の恩に報るのみ、総督もし生を欲せば出で・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
出典:青空文庫