・・・そうしておいてから、田代公吉を縄張問題から同業の暴漢になぐらせ負傷させ卒倒させておいてそこへ前のダンサーを通りかからせ、そうして目的のアパートへ連れて行かせる。そこでダンサーに身の上話をさせることによって悪漢騎手の旧情夫の存在を観客に呑込ま・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 善ニョムさんは、また天秤棒を振りあげたが、図々しく、断髪娘はお臀をなぐられて、まだヘタリ込んだままであった。「いたい、いたいッ」 十六七の断髪娘は、立派な洋服を、惜し気なく、泥まみれにしながら、泣き喚いた。「誰か来てよう―・・・ 徳永直 「麦の芽」
・・・ ×なぐらせるという反抗の仕方だけ残され憎しみのかたまりとなってうんとなぐらせる。 ×手ばなしでなぐられる金しばりの中で頑固に自らを試煉する。 これらの作品は、非常に複雑で熱い意欲をた・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・泉に近づいただけでもののしられ、なぐられる。小さい黒い男の子ウペシュは、それを眺めてフンガイするが、どうしよう? ウペシュにも彼をなぐるものがある。イギリスの役人だ。彼は小さいインドの小僧としてそのイギリス人に使われ、字を読むことも知らない・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・子供のころ、まるで理由なしになぐられたり、どなられたりした話を、いくつでも持ち出して、反駁するばかりであった。そこにはむしろ父親に対する憎悪さえも感じられた。それで私ははっと気づいたのである。十歳にならない子供に、創作家たる父親の癇癪の起こ・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫