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・・・風が小凪ぐと滅入るような静かさが囲炉裡まで逼って来た。 仁右衛門は朝から酒を欲したけれども一滴もありようはなかった。寝起きから妙に思い入っているようだった彼れは、何かのきっかけに勢よく立ち上って、斧を取上げた。そして馬の前に立った。馬は・・・
有島武郎
「カインの末裔」
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・・・て、真面目に女学論など唱うるも耳を傾けて静に之を聞くもの有りや無しや甚だ覚束なき有様なるにぞ、只これを心に蓄うるのみにして容易に発せず、以て時機の到来を待ちたりしに、爾来世運の進歩に随い人の心も次第に和ぐと共に、世間の観察議論も次第に精密に・・・
福沢諭吉
「新女大学」