・・・そこで山男は、のどの遠くの方を、ごろごろならしながら、また考えました。(ぜんたい雲というものは、風のぐあいで、行ったり来たりぽかっと無くなってみたり、俄 そのとき山男は、なんだかむやみに足とあたまが軽くなって、逆さまに空気のなかにう・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・彼は自分の美しい若い妻を、女に知識は必要ないという主義で馴らしていたから、アンネットの裡に全然別種な、自分と共鳴することによって異常な興味を呼び醒された一箇の女性を発見したのであった。 この恋愛も破滅した。原因は、男の強大な主我主義と肉・・・ 宮本百合子 「アンネット」
・・・ フム、フム、と鼻をならして聞いて居たお金は話が仕舞うか、仕舞わないに、「あんた、ほんとにそれの世話を焼くつもりで居るんですか。と短兵急に云った。「ああ。「お目出たいわけだ、 返すもんですかね。返さないに・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 四角く土をならし水を打ち莚を敷いて最後の式はスラスラとすんで仕舞った。 何と云うあっけない事だろう。 私の只った一人の妹は斯うして喪むられて仕舞った。失せられていやます肉親の愛情の不思議な力は私には堪えられないほどなつかしい尊・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・非番巡査まで非常召集され顎紐をかけ脚絆をつけた連中が内庭と演武場に充満して佩剣をならしている。 高等室では主任と宿直だけがのこり、署の入口のところに二台大トラックが止って、二人の普通の運転手がその上でだらしなく居睡りをしている。 頻・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・――果して、彼女たちの三十円ならしの月給は、独立するに十分でしょうか? 恋愛して、母となる時、では会社は月給つきの休暇を四ヵ月くれますか? 姙娠五ヵ月以上、十ヵ月未満の赤坊のある婦人は決して解雇しないという労働法を、会社は適用するでしょ・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・彼等は車道のすぐ傍を、同じように落付かない洋服姿の男等が膝かけなしで俥に乗り、カラカラ、カラと鈴をならして駆けさせるのを見ないふりで、速足に前へ前へと追い抜いて行く。 女は、一目で、此界隈の者が多いのを知れた。種々な種類の彼女等は、装こ・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・リンをチリンチリンとならして走って来た。彼はつんぼだからきこえないのだろう、まだぼんやりと見まわして居る。私は大急で走けつけて彼の手を引っぱって人道の方に引き入れた。私はもうがっかりしてしまった。こんなじいやをつれて来てどうしてよかろうと。・・・ 宮本百合子 「心配」
・・・日常の実践のなかからおこなわれて来たことです、革命当時、どの女にとっても新しい一日は新しい一世紀みたいだった、仕事はうんとある、人が足りない、今までは引こんでいた女が場所につく、直ぐ新しい仕事に自分を馴らし、刻々推移する事情を判断し、自身い・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・「いくらかのぼりだろうかな」「ならし六度の勾配になって居ります これからずーっと上りになります」「ふーむ、ずーっとね」その男松川やの細君の手真似をする――手をずーっととあげて。やがて、ギーアをかえ爆音つよし「ほらのぼりだな、・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫