・・・西洋ふうの建物がならんでいて、通りには、柳の木などが植わっていました。けれども、なんとなく静かな町でありました。 さよ子はその街の中を歩いてきますと、目の前に高い建物がありました。それは時計台で、塔の上に大きな時計があって、その時計のガ・・・ 小川未明 「青い時計台」
・・・に古びていましたけれど、額ぎわを斬られて血の流れたのや、また青い顔をして、口から赤い炎を吐いている女や、また、顔が六つもあるような人間の気味悪いものの外に、鳥やさるや、ねこなどの顔を造ったものが幾つもならんでいたからです。片方の中には、あめ・・・ 小川未明 「空色の着物をきた子供」
・・・に自分がそれを、言ったことについては何も感じないらしく、またいろいろその娘の話をしながら最後に、「あの娘はやっぱりあのお婆さんが生きていてやらんことには、――あのお婆さんが死んでからまだ二た月にもならんでなあ」と嘆じて見せるのだった。・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・今日一つ原に会ってこの新聞を見せてやらなければならん」「無闇な事も出来ますまいが、今度の設計なら決して高い予算じゃ御座いませんよ、何にしろあの建坪ですもの、八千円なら安い位なものです」「いやその安価のが私ゃ気に喰わんのだが、先ず御互・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・においては反復熟読して暗記するばかりに読み味わうべきものである。 一度通読しては二度と手にとらぬ書物のみ書庫にみつることは寂寞である。 自分の職能の専門のための読書以外においては、「物識り」にならんがために濫読することは無用のことで・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・十四年までは、病気がよくならんのでブラ/\して暮してしまった。十五年十一月、文芸戦線同人となった。それ以来、文戦の一員として今日に到っている。短篇集に、「豚群」と「橇」がある。 黒島伝治 「自伝」
・・・そこには、ちゃんといろんな御ちそうのお皿がならんでいました。 ウイリイは犬からよく言われて来たので、一ばんはじめの一皿だけたべて、あとのお皿へはちっとも手をつけませんでした。 御飯がすむと、王女は方々の部屋々々を見せてくれました。何・・・ 鈴木三重吉 「黄金鳥」
・・・その雑誌の広告が新聞に出て、その兵隊さんの名前も、立派な小説家の名前とならんでいるのを見たときは、私は、六年まえ、はじめて或る文芸雑誌に私の小品が発表された、そのときの二倍くらい、うれしかった。ありがたいと思った。早速、編輯者へ、千万遍のお・・・ 太宰治 「鴎」
・・・青扇は僕とならんでソファに腰をおろしてから、隣りの部屋へ声をかけたのである。 水兵服を着た小柄な女が、四畳半のほうから、ぴょこんと出て来た。丸顔の健康そうな頬をした少女であった。眼もおそれを知らぬようにきょとんと澄んでいた。「おおや・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・一同座敷の片側へ一列にならんで順々拝が始まる。自分も縁側へ出て新しく水を入れた手水鉢で手洗い口すすいで霊前にぬかずき、わが名を申上げて拍手を打つと花瓶の檜扇の花びらが落ちて葡萄の上にとまった。いちばん御拝の長かったは母上で、いちばん神様の御・・・ 寺田寅彦 「祭」
出典:青空文庫