・・・一、幼年の者へは漢学を先にして、後に洋学に入らしむるの説もあれども、漢字を知るはさまで難事にあらず、よく順序を定めて、四書五経などむつかしき書は、字を知りて後に学ぶべきなり。少年のとき四書五経の素読に費す年月はおびただしきものなり。字を・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・つまる処、子供とて何時までも子供にあらず、直に一人前の男女となり、世の中の一部分を働くべき人間となるべきものなれば、事の大小軽重を問わず、人間必要の習慣を成すに益あるか妨げあるかを考え合わせて、然る後に手を下すべきのみ。然らずんば、人間の腹・・・ 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
・・・然るに内行を潔清に維持して俯仰慚ずる所なからんとするは、気力乏しき人にとりて随分一難事とも称すべきものなるが故に、西洋の男女独り木石にあらずまた独り強者にあらず、俗にいう穴探しの筆法を以てその社会の陰処を摘発するにおいては、千百の醜行醜聞、・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・、少しは文字の心得もなからざるべからずといえども、今の実際は、ただ文字の一方に偏し、いやしくもよく書を読み字を書く者あれば、これを最上として、試験の点数はもちろん、世の毀誉もまた、これにしたがい、よく難字を解しよく字を書くものを視て、神童な・・・ 福沢諭吉 「文明教育論」
・・・それからもう何時だかもわからず弾いているかもわからずごうごうやっていますと誰か屋根裏をこっこっと叩くものがあります。「猫、まだこりないのか。」 ゴーシュが叫びますといきなり天井の穴からぽろんと音がして一疋の灰いろの鳥が降りて来ました・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・死亡承諾書、私儀永々御恩顧の次第に有之候儘、御都合により、何時にても死亡仕るべく候年月日フランドン畜舎内、ヨークシャイヤ、フランドン農学校長殿 とこれだけのことだがね、」校長はもう云い出したので、一瀉千里にまくしかけた。「つまりお前はど・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・モスクワでは、時々夜おそくなるまで何かしていてふと思い出し、 ――今日本何時頃だろ。 ――今――二時だね、じゃ九時だ朝の。もう学校がはじまってる―― そんなことを話し合った。 だがこのウラジヴォストク直通列車は、二十何時間か・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ こう云う自分の心持の変化は、今まで矢張り何かで被われていた女性全般に対する心の持方を何時とは無く変えさせて来た。 現在では女性の――生活の様式がどうしても単調で変化に乏しいと云う点、自分が女性としての性的生活を完全に営んでいなかっ・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 大体、外国人を案内して、外見的には、生活系統が全然ちがう日本を、現実的に、私共があそこをこそ観て欲しかったと思うように、観察させることは、日本の事情に於て難事中の難事である。又一方からいうと、そういう目をもった外国人が果して何人来るで・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 十七年危篤に陥ったとき腎臓をいためていたまま戦時中手当ができず、その後の活動によって慢性の難治な状態になっています。十二月から三月ごろまで尿毒症の危険があり、視力喪失の危険もあったので様々の治療を試みています。また医者も通院を禁止し・・・ 宮本百合子 「文学について」
出典:青空文庫