・・・ 昼過ぎから猛烈な吹雪が襲って来たので、捲上の人夫や、捨場の人夫や、バラス取り、砂揚げの連中は「五分」で上ってしまった。 坑夫だって人間である以上、早仕舞いにして上りたいのは、他の連中と些も違いはなかった。 だが、掘鑿は急がれて・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・そうして人夫共は埋めた上に土を高くして其上を頻りに踏み固めている。もう生きかえってもだめだ、いくら声を出しても聞こえるものではない。自分が斯んな土の下に葬むられておると思うと窮屈とも何ともいいようが無い。六尺の深さならまだしもであるが、友達・・・ 正岡子規 「死後」
・・・二、三十人の人夫は泥を掘る者もあるその掘った泥を運ぶ者もある。皆泥にまぶれて居る者ばかりだ。泥の臭いは紛々と鼻を衝いて来る。満面皆泥のこのけしきを見て先ず心持が悪くなって来た。 少し休んで居る内背中がぞくぞくと寒くなって来ていよいよ不愉・・・ 正岡子規 「車上の春光」
・・・しかるに残酷なる病の神は、それさえも憎むと見えて、朝々一番鶏二番鶏とうたい出す彼の声は、夜もねられずに病牀に煩悶して居る予の頭をいよいよ攪乱するので、遂に四、五人の人夫の手をかけて、彼の鳥籠は病室の外から遠ざけられ、向うの庭の隅に移されてし・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・何でも人夫どもに水を飲ませるのが悪いというので、水瓶の処へ番兵を立てる事になった。自分は足がガクガクするように感ぜられて、室に帰って寐ると、やがて足は氷の如く冷えてしもうた。これは先刻風呂に這入った反動が来たのであるけれど、時機が時機である・・・ 正岡子規 「病」
・・・今太陽は海、出鼻の上を暖かく照らし、岸壁でトロを押している支那人夫の背中をもてらしている。 ウラジヴォストクでは、町の人気も荒そうに思われていた。来て見るとそれは違う。時間の関係か、街はおだやかだ。港もしずかだ。海の上を日が照らしている・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・話の筋は、氏の得意とされる馴れの行動による知識人夫妻の悲劇的殺傷問題である。良人が兇器をもって不自然に死んだ妻の傍に立っていた。だから良人が手を下したのではないかという疑いは一応誰しも持つであろう。実際は誤った自殺であった。五十一頁に亙る探・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・五番町英国大使館の前に、麹町区役所死体収容所が出来、あらゴモで前かけをした人夫が、かたまり、トタンのかこいをした場所に死骸をあつめて居る。夜、青山の通を吉田、福岡両氏をたずね、多く屋根の落ちかかった家を見る。ひどい人通りで、街中 九・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・バンチ博士の見解と行動にノーベル賞を与えた人々は、彼の善意を国際政治の道路掃除夫或は屍体処理人夫たらしめないために、誠意をもって科学の成果と人間関係方面の成果との公明正大な結合を承認すべきである。科学の天才にたのんで、非人間的なグロバリズム・・・ 宮本百合子 「「人間関係方面の成果」」
・・・ 募集された人夫の一人となった禰宜様宮田は、先ず森の伐採から着手することになった。白土運びをするより賃銭も高し、切り倒した樹木の小枝ぐらいは貰っても来られるという利益があったのである。 深く、暗く、鬱蒼として茂りに茂っている森は、次・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
出典:青空文庫