・・・これは粗雑な訳で、文学的な香りは文学からすっかりぬかれていてつまりは話の筋を読むような情けないものではあったが、それでも作品として受けた感情は浅くなかった。「山の英雄」という訳名よりも、「ほかの神々」という原名の方が遙に内容に切実である。・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・年を取ッた武者は北東に見えるかたそぎを指さして若いのに向い、「誠に広いではおじゃらぬか。いずくを見ても原ばかりじゃ。和主などはまだ知りなさるまいが、それあすこのかたそぎ、のうあれが名に聞ゆる明神じゃ。その、また、北東には浜成たちの観世音・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・一つの生に貫ぬかれてはいるが、産む者と産まるる者との相違はある。偉大な花は深く張った根からでなくては産まれない。 真に価値ある苦しみはただ根にのみ関する。大きい根から美しい花の咲かないことはあっても枯れかかった根から美しい花の咲くことは・・・ 和辻哲郎 「ベエトォフェンの面」
出典:青空文庫