・・・王様は早速、適当な兵を送り出して置いて、いつもの通り瞬く間に勝って来るのを、王宮の暖いお寝間の中で待っておられた。 けれども、どうしたのか、兵は、却って隣国の者に追いまくられ、散り散りばらばらになってしまったので、また、二度目の出兵が必・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 南向の八畳、寝間によさそうな六畳、三畳と、玄関との間の四畳半。広告にはなくて、深い戸棚つきの納戸があったことは、すっかり我々を御機嫌にさせた。小林さん、金田さんに一日二日手伝って貰い、紀元節の日、半月前には、予想もしなかった引越しを行・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・女中が急いで寝間を掃除しているのである。はたきの音が殊に劇しいので、木村は度々小言を言ったが、一日位直っても、また元の通りになる。はたきに附けてある紙ではたかずに、柄の先きではたくのである。木村はこれを「本能的掃除」と名づけた。鳩の卵を抱い・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ 電燈は邸ではどの寝間にも夜どおし附いている。しかし秀麿は寝る時必ず消して寝る習慣を持っているので、それが附いていれば、又徹夜して本を読んでいたと云うことが分かる。それで奥さんは手水に起きる度に、廊下から見て、秀麿のいる洋室の窓の隙から・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・こまでもひびき渡りそうな天井を見ても、おっかなく、ヒョット殿さまが出ていらしッたらどうしようと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長いお廊下を通って、漸く奥様のお寝間へ行着ましたが、どこからともなく、ホ・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫