・・・「ねんねん、ころころ、ねんねしな。なかんで、いい子だ、ねんねしな。」 子供を失った悲しみから、気の狂ったおきぬは、昼となく、夜となく、こうしてうたいながら、村道を歩いて山の方へとさまよっていました。 村にあられが降り・・・ 小川未明 「谷にうたう女」
・・・世の中の名士のひとりに成り失せる。ねんねんと動き、いたるところ、いたるところ、かんばしからぬへまを演じ、まるで、なっていなかった、悪霊の作者が、そぞろなつかしくなって来るのだ。軽薄才子のよろしき哉。滅茶な失敗のありがたさよ。醜き慾念の尊さよ・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・それは年年秋月与二春花一 〔年年 秋の月と春の花と行楽何知鬢欲レ華 行楽して何ぞ知らん鬢華らんと欲するを隔レ水唯開川口店 水を隔てて唯だ開く川口の店背レ空鎖葛西家 を背にして空しく鎖す葛西の家紅裙翠黛人終・・・ 永井荷風 「向嶋」
出典:青空文庫