・・・学期ごとにこんな風で、専門の学問に手を出した事のない子爵には、どんな物だか見当の附かぬ学科さえあるが、とにかく随分雑駁な学問のしようをしているらしいと云う事だけは判断が出来た。しかし子爵はそれを苦にもしない。息子を大学に入れたり、洋行をさせ・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・もとより江戸と駿府とに分けて進上するという初めからのしくみではなかったので、急に抜差しをしてととのえたものであろう。江戸で出した国書の別幅に十一色の目録があったが、本書とは墨色が相違していたそうである。 この日に家康は翠色の装束をして、・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・死んだ蜂谷の身のまわりを調べた役人は、かねて見知っている蜂谷の金熨斗付きの大小の代りに、甚五郎の物らしい大小の置いてあるのに気がついた。そのほかにはこの奇怪な出来事を判断する種になりそうな事は格別ない。ただ小姓たちの言うのを聞けば、蜂谷は今・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫