・・・千島の分だけはいろいろの困難があるので除き、また台湾、朝鮮も除く事とする。 さて Aso, Usu, Uns(z)en, Esan の四つを取ってみる。これはいずれも母音で始まり、次に子音で始まる綴音が来る。終わりのnは問題外とする。・・・ 寺田寅彦 「火山の名について」
・・・昆虫の世界は覗く間がなかった。八月にまた行ったとき、もう少し顕微鏡下の生命の驚異に親しみたいと思っている。 寺田寅彦 「高原」
・・・これらが一通り具備したる暁においても、現象の偶然性を除く程度まで精しくこれを知悉する困難は現象の性質上甚だ大なるべし。かくのごとき場合には公算論の指示する統計的方法を取る外なかるべきも、公算が変数の連続函数なりと断定し難く、また最大公算を有・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・東照宮前から境内を覗くと石燈籠は一つ残らず象棋倒しに北の方へ倒れている。大鳥居の柱は立っているが上の横桁が外れかかり、しかも落ちないで危うく止まっているのであった。精養軒のボーイ達が大きな桜の根元に寄集まっていた。大仏の首の落ちた事は後で知・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・ 凶作のみならず水害風害あるいは地震や火事の災害を根本的に除くためには、やはり同様な恒久的施設が必要である。健忘症の政治家や気まぐれな学界元老などの手に任せておくにはあまりに大切な仕事である。 こういう見地から見て現在一番信頼の出来・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・それで一つの方則を実験しようというならば、その実験を支配し得る種々の原因要素を分解して、その内から特にその方則に指定した要素のみを抽出し、他のものを除くようにしなければ予定の結果を得る事は出来ない。少し極端な云い分ではあるが、物理学の方則と・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・そして怖々に、障子を開けて塀越しに覗くと、そのまま息を凝らしてしまった。「何だ、どうした?」 それでも、お初は黙っている。 利平は、傷みを忘れて、赤ン坊を打っちゃったまま、お初の背後に立った。 と、其処は、本部の裏縁が見えて・・・ 徳永直 「眼」
・・・按摩の笛の音も色町を除くの外近年は全く絶えたようである。されば之に代って昭和時代の東京市中に哀愁脉々たる夜曲を奏するもの、唯南京蕎麦売の簫があるばかりとなった。 新内語りを始め其他の街上の芸人についてはここに言わない。 その日その日・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・左手はとびとびに人家のつづいている中に、不動院という門構の寺や、医者の家、土蔵づくりの雑貨店なども交っているが、その間の路地を覗くと、見るも哀れな裏長屋が、向きも方角もなく入り乱れてぼろぼろの亜鉛屋根を並べている。普請中の貸家も見える。道の・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・霜の白い朝彼は起きて屹度犬の箱を覗く。犬は小さいながら成長した。春らしい日の光が稀にはほっかり射すようになって麦がみずみずしい青さを催して来た頃犬は見違える程大きくなった。毛が赤いので赤と呼んだ。太十が出る時は赤は屹度附いて出る。附いて行く・・・ 長塚節 「太十と其犬」
出典:青空文庫