・・・水が上ることが知られさえすればそれが何寸上ったかを計りたくなり、ポンプを引くのにひどく力がいればそれが何人力だか計りたくなり、そうしてそれを計る事ならばだれにでもできるのである。 ガリレー、ゲーリケ以後今日まで同様なことがずっと続いて跡・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・ 過去はこれらのイズムに因って支配せられたるが故に、これからもまたこのイズムに支配せられざるべからずと臆断して、一短期の過程より得たる輪廓を胸に蔵して、凡てを断ぜんとするものは、升を抱いて高さを計り、かねて長さを量らんとするが如き暴挙で・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
・・・よって今、論者諸賢のため全篇通読の便利を計り、これを重刊して一冊子となすという。 明治一六年二月編者識と記すべき法なるを、ある時、林大学頭より出したる受取書に、楷書をもって尋常に米と記しければ、勘定所の俗吏輩、いかでこれを許すべき・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・その用の価は子を養教するの用に比較して綿密に軽重を量りたるか。甚だ疑うべし。 また口実に云く、戸外の用も内実は好む所にあらざれども、この用に従事せざれば銭を得ず、銭なければ家を支うるを得ず、子供を棄てて学校に入れたるは止むを得ざるの事情・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・ そもそも洋学のよって興りしその始を尋ぬるに、昔、享保の頃、長崎の訳官某等、和蘭通市の便を計り、その国の書を読み習わんことを訴えしが、速やかに允可を賜りぬ。すなわち我が邦の人、横行の文字を読み習うるの始めなり。 その後、宝暦明和の頃・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・人の悪口や、欠点計り探す事はいけないと分れば、どんな時にでも、それはしまいと心に願いました。 人間は、花や小鳥や、天と地とがそうであるように、お互に助け合い、其の人々の持っているよい点を尚お磨きながら、楽しく睦じく、そして正しく暮して行・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ 自分の良人を深く深く愛し、謙遜に、恭々しく、出来るだけの努力でその愛を価値高い、純粋なものに浄化させて行き度いと希う自分は、最も計り難い、最も絶対な一大事として、愛する良人との死別ということをも考えずにはいられなく成ったのです。 ・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・世帯を持つとき、桝を買った筈だが、別当はあれで麦を量りはしないかと云うのである。婆あさんは、別当の桝を使ったのは見たことがないと云った。石田は「そうか」と云って、ついと部屋に帰った。そして将校行李の蓋を開けて、半切毛布に包んだ箱を出した。H・・・ 森鴎外 「鶏」
どこかで計画しているだろうと思うようなこと、想像で計り知られるようなこと、実際これはこうなる、あれはああなると思うような何んでもない、簡単なことが渦巻き返して来ると、ルーレットの盤の停止点を見詰めるように、停るまでは動きが・・・ 横光利一 「鵜飼」
・・・心の濃淡を感覚の上に移し、情の深さを味わいのこまやかさで量り、生の豊麗を肉感の豊麗に求めた。そうしてすべてを変化のゆえに、新味のゆえに尚んだ。こうして私は生の深秘をつかむと信じながら、常に核実を遠のいていたのであった。それゆえに私は真の勇気・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫