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・・・濠の土手に淡竹の藪があって、筍が沢山出た。僕等は袋を母親に拵えて貰って、よく出懸けて行っては、それを取って来たものだ。其頃は屹度空が深い碧で、沼には蘆の新芽が風に吹かれて、対岸の丘には躑躅が赤く咲いて居た。 初夏の空の碧! それに、欅の・・・
田山花袋
「新茶のかおり」
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・・・あたかもそれは、ナポレオンの軍馬が破竹のごとくオーストリアの領土を侵蝕して行く地図の姿に相似していた。――この時からナポレオンの奇怪な哄笑は深夜の部屋の中で人知れず始められた。 彼の田虫の活動はナポレオンの全身を戦慄させた。その活動の最・・・
横光利一
「ナポレオンと田虫」