・・・とは人のよくいうところであるが、それは「いったとてお前に解りそうにないからもういわぬ」という意味でないかぎり、卑劣極まったいい方といわねばならぬ。我々は今まで議論以外もしくは以上の事として取扱われていた「趣味」というものに対して、もっと厳粛・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・これは平吉……平さんと言うが早解り。織次の亡き親父と同じ夥間の職人である。 此処からはもう近い。この柳の通筋を突当りに、真蒼な山がある。それへ向って二町ばかり、城の大手を右に見て、左へ折れた、屋並の揃った町の中ほどに、きちんとして暮して・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ 婆さんも張合のあることと思入った形で、「折入って旦那様に聞いてやって頂きたいので、委しく申上げませんと解りません、お可煩くなりましたら、面倒だとおっしゃって下さりまし、直ぐとお茶にいたしてしまいまする。 あの娘は阿米といいまし・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・そうすりゃ素人目にも快くおなんなすった解りが早くッて、結句張合があると思ったんですが、もうお医者様へいらっしゃることが出来たのはその日ッきり。新さん、やっぱりいけなかったの。 お医者様はとてもいけないって云いました、新さん、私ゃじっと堪・・・ 泉鏡花 「誓之巻」
・・・はじめは、我身の不束ばかりと、怨めしいも、口惜いも、ただ謹でいましたが、一年二年と経ちますうちに、よくその心が解りました。――夫をはじめ、――私の身につきました、……実家で預ります財産に、目をつけているのです。いまは月々のその利分で、……そ・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・「訳は申上げる事は出来ませんが、そのお方の事が始終気に懸りまして、それがために、いつでも泣いたり笑ったり、自分でも解りませんほど、気を揉んでおりました。それがあの、病の原因なんでございましょう。 昼も夜もどっちで夢を見るのか解りませ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・堀端では、前後一度だって、横顔の鼻筋だって、見えないばかりか、解りもしない。が、朝、お京さんに聞いたばかりで、すぐ、ああ、それだと思ったのも、おなじ死ぬ気の、気で感じたのであろうと思う…… と、お京さんが、むこうの後妻の目をそらして、格・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・昨日政夫さんが来るのは解りきって居るのに、姉さんがいろんなことを云って、一昨日お民さんを市川へ帰したんですよ。待つ人があるだっぺとか逢いたい人が待ちどおかっぺとか、当こすりを云ってお民さんを泣かせたりしてネ、お母さんにも何でもいろいろなこと・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・この解り切った事を、そうさせないのが今の社会である。社会というものは意外ばかなことをやっている。自分がその拘束に苦しみ切っていながら、依然として他を拘束しつつある。 四 土屋の家では、省作に対するおとよの噂も、いつ・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・道学先生とするには世間が解り過ぎていた。ツマリ二葉亭の風格は小説家とも政治家とも君子とも豪傑とも実際家とも道学先生とも何とも定められなかった。 社交的応酬は余り上手でなかったが、慇懃謙遜な言葉に誠意が滔れて人を心服さした。弁舌は下手でも・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
出典:青空文庫