・・・苦しんでいる人間をして飽くまで苦しませるという事は、その人間が軈て何物かに突当る事を得せしむるものだ。半途でそれを救うとしたならば、その人間は終に行く所まで行かずして仕舞う。凡ての窮局によって人間は初めてある信仰に入る。自ら眼覚める。今の世・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・圧搾せられたる版図に於て、自由を求めた。恨みを述べた。そして人生というものを宿命的のものに強いて見ようとつとめた。「芸術は革命的精神に醗酵す」という宣言の下に生れた芸術とは、全く選を異にする。一つは、太平時代の産物であり、装飾であり、娯・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・自分は何事でも思立ったほどならば半途で止まずに、その極処まで究めようと心掛けた。自分は飯綱の法を修行したが、遂に成就したと思ったのは、何処に身を置いて寝ても、寝たところの屋の上に夜半頃になればきっと鴟が来て鳴いたし、また路を行けば行く前には・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・大尉は奥さんの手に子供衆を遺し、仕掛けた塾の仕事も半途で亡くなった。大尉の亡骸は士族地に葬られた。子供衆に遺して行った多くの和漢の書籍は、親戚の立会の上で、後仕末のために糴売に附せられた。 桜井先生の長い立派な鬚は目立って白くなった。毎・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
一 フランスの絵入雑誌を見ていると、モロッコ地方の叛徒の討伐に関する写真ニュースが数々掲載されている。それらの写真の下にある説明の文句を読んで見ると「モロッコ地方の Pacification のエピ・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・サレバ客ノ此楼ニ登ツテ酔ヲ買ハント欲スルモノ、若シ特ニ某隊中ノ阿嬌第何番ノ艶語ヲ聞カンコトヲ冀フヤ、先阿嬌所属ノ一隊ノ部署ヲ窺ヒ而シテ後其ノ席ニ就カザル可カラズ。然ラザレバ徒ニ纏頭ヲ他隊ノ婢ニ投ジテ而モ終宵阿嬌ノ玉顔ヲ拝スルノ機ヲ失スト云。・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ 文学者でチェルシーに縁故のあるものを挙げると昔しはトマス・モア、下ってスモレット、なお下ってカーライルと同時代にはリ・ハントなどがもっとも著名である。ハントの家はカーライルの直近傍で、現にカーライルがこの家に引き移った晩尋ねて来たとい・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・あすの試合に後るるは、始めより出づるはずならぬを、半途より思い返しての仕業故である。闘技の埒に馬乗り入れてランスロットよ、後れたるランスロットよ、と謳わるるだけならばそれまでの浮名である。去れど後れたるは病のため、後れながらも参りたるはまこ・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・いろいろの事情で、私は私の企てた事業を半途で中止してしまいました。私の著わした文学論はその記念というよりもむしろ失敗の亡骸です。しかも畸形児の亡骸です。あるいは立派に建設されないうちに地震で倒された未成市街の廃墟のようなものです。 しか・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・その結果、半途にして学校を退くようになった。当時思うよう、学問は必ずしも独学にて成し遂げられないことはあるまい、むしろ学校の羈絆を脱して自由に読書するに如くはないと。終日家居して読書した。然るに未だ一年をも経ない中に、眼を疾んで医師から読書・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
出典:青空文庫