・・・十数年後ハンスカ夫人に宛てた手紙の中でバルザックが当時の優しい回想に溺れながら述べているように、困窮の中にある「人間を極度の卑屈から守る自負を」バルザックの心に植えつけたのも彼女の激励のたまものであった。ベルニィ夫人は、自分が両親を通して知・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ ハンガリアン・ラプソディーの波を背負って、自分でもそんな音楽にびっくりしているようなのぼせた頬のリーダの顔が現れた。 日本女は、リーダの手を握り、立ったまませわしく話し、二本の瓶を書類入鞄から出した代りにそこへ蜂蜜の小さい入れもの・・・ 宮本百合子 「モスクワの辻馬車」
・・・一人の明めいせきはんだんのない狂いというものの持つ恐怖は、も早や日常茶飯事の平静ささえ伴なっている静かな夕暮だった。「ここへ来る人間は、みなあの部屋へ這入りたいのだろうが、今夜のあの灯の下には哀愁があるね。前にはソビエットが見ているし。・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫