・・・さいわい、戦災にも遭わず、二人の子供は丸々と太り、老母と妻との折合いもよろしく、彼は日の出と共に起きて、井戸端で顔を洗い、その気分のすがすがしさ、思わずパンパンと太陽に向って柏手を打って礼拝するのである。老母妻子の笑顔を思えば、買い出しのお・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ピストルが欲しいな。パンパンと電線をねらって撃つと、電線は一本ずつプツンプツンと切れるんだ。日本は、せまいな。かなしい時には、素はだかで泳ぎまくるのが一番いいんだ。どうして悪いんだろう。なんにも出来やしないじゃないか。めったな事は言われねえ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・心掛は下品尾籠の極度なり、よしよし今宵は天に代りて汝を、などと申述べ候も、入歯をはずし申候ゆえ、発音いちじるしく明瞭を欠き、われながらいやになり、今は之まで、と腕を伸ばして、老画伯の赤銅色に輝く左頬をパンパンパンと三つ殴り候えども、画伯はあ・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・「そりゃそう言ったかも知れないけど、あのひとの一存では、きめられませんよ。私のほうにも都合があります。」「どんな都合?」「そんな事は、お前さんに言う必要は無い。」「パンパンに貸すのか?」「そうでしょう。」「姉さん、僕・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ その頃ロシヤのパンパンと呼んで山の手の町を売り歩く行賈の声がわたくしには耳新しく聞きなされた。然しこれとても、東京の市街は広いので、わたくしが牛込辺で物めずらしく思った時には、他の町に在っては既に早く耳馴れたものになっていたかも図られ・・・ 永井荷風 「巷の声」
・・・ 作品の欠点や、チャチなところだけをつまみだして、パンパンパンと平手うちにやっつける批評ぶりは、本当のプロレタリア的批評ではない。溜飲はさがるかもしれないが弁証法的でないし、建設的でない。 大森義太郎氏の文学作品批評はきびきびしてい・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・ 赤い布で頭を包んだ婦人郵便配達が、ベンチの上へパンパンに書附類の入った黒鞄をひろげいそがしそうに何か探している。太い脚を黒い編あげ靴がキュッとしめている。 いそぎ足でいろんな人間が廊下をとおった。みんな、この大きな建物内にある無数・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫