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・・・佐佐は、そんなら菓子でもやって、すかして帰せ、それでもきかぬなら引き立てて帰せと命じた。 与力の座を立ったあとへ、城代太田備中守資晴がたずねて来た。正式の見回りではなく、私の用事があって来たのである。太田の用事が済むと、佐佐はただ今かよ・・・
森鴎外
「最後の一句」
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・・・そして引き立てて戸口を出る。蒼ざめた月を仰ぎながら、二人は目見えのときに通った、広い馬道を引かれて行く。階を三段登る。廊を通る。廻り廻ってさきの日に見た広間にはいる。そこには大勢の人が黙って並んでいる。三郎は二人を炭火の真っ赤におこった炉の・・・
森鴎外
「山椒大夫」