・・・然るにこの頃の多数の新進画家は、もう天然などは見なくてもよい、か、あるいはむしろ可成的見ないことにして、あらゆる素人よりも一層皮相的に見た物の姿をかりて、最も浅薄なイデオロギーを、しかも観者にはなるべく分りにくい形に表現することによって、何・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・それが陽気で眩目的であるだけに効果は大概皮相的で、人の心のほんの上面をなでるだけである。そしてなでられたくない人は、自由にそれを避ける事ができる。人の門内や玄関まで押しかけて来ない。その点でも市会議員の選挙運動などよりはよほど穏やかでいいも・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・今日大学の専門の学生でさえ講義ばかり当てにして自分から進んで研究しようという気風が乏しく知識が皮相的に流れやすいのは、小学校以来の理科教授がただ与えられた知識を覚えればよいというように教えこまれている結果であろう。これには最も必要なことは児・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・である。しかしこの迷理を救うものは「方則」である。皮相的には全く無関係な知識の間の隔壁が破れて二つのものが一つに包括される。かようにしてすべての戸棚や引出しの仕切りをことごとく破ってしまうのが、物理科学の究極の目的である。隔壁が除かれてもも・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・あまりに皮相的な軽率な類推の危険な事を今さらのように思ってみたりした。実際そんな単純な考えが熱狂的な少数の人の口から群集の間に燎原の火のようにひろがって、「芝」を根もとまで焼き払おうとした例が西洋の歴史などにないでもなかった。文明の葉は刈る・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・や、これらの絵からあらを捜せばいくらもあるだろうし、徒らに皮相の奇を求めるとけなす人はあるだろうが、しかし何と云ってもどこか吾人の胸の奥に隠れたある物、ある根強い要求に共鳴をさせるところがありはしまいか。感覚的な外観の底にかくれた不可達の生・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・ 現代に隆盛を極めている各方面の通俗的な雑誌はこういう安価で軽便な皮相的な知識を汽車弁当のおかずのごとく詰め込んであるが、ただ自分のちょうど欲しいと思うものを自分の欲しい時に手にいれようとするには不便である。それには百貨店に私のこの提案・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ こういう皮相的科学教育が普及した結果として、あらゆる化け物どもは箱根はもちろん日本の国境から追放された。あらゆる化け物に関する貴重な「事実」をすべて迷信という言葉で抹殺する事がすなわち科学の目的であり手がらででもあるかのような・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・けにも行かないわけであるが、それでもただやみがたい好奇心から、余暇あるごとに少しずつ、だんだんに手近い隣接国民の語彙を瞥見する事になり、それが次第次第に西漸していわゆる近東から東欧方面までも、きわめて皮相的ながらのぞいて見るような行きがかり・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 数十種の実験を皮相的申訳的にやってしまうよりも、少数の実験でも出来るだけ徹底的に練習し、出来るだけあらゆる可能な困難に当ってみて、必成の途を明らかにするように勉める方が遥かに永久的の効果があり、本当の科学的の研究方法を覚える助けになる・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
出典:青空文庫