・・・そして、鋪道に溢れるような人出に紛れ込もうとした時、私はふと、山崎の陰鬱に光る大飾窓の向い合った処に、一人日本人でない露店商人がいるのに目をつけた。 そこは私が見てさえ、商売上得な位置とは思えなかった。車道を踰えて鋪道にかかったばかりの・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・さらに、われわれがゆく前には運動すらも、監獄法によって所定されている運動すらも、人手がないというので絶対に許されておらない、しかも外部からの面会、差入れは絶対に禁止されていた。」このことは、おそらく被告たちが六法全書さえ読むことができなかっ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・さらに、われわれがゆく前には運動すらも、監獄法によって所定されている運動すらも、人手がないというので絶対に許されておらない、しかも外部からの面会、差入れは絶対に禁止されていた。」このことは、おそらく被告たちが六法全書さえ読むことができなかっ・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・浜町も蠣殻町も風下で、火の手は三つに分かれて焼けて来るのを見て、神戸の内は人出も多いからと云って、九郎右衛門は蠣殻町へ飛んで帰った。 山本の内では九郎右衛門が指図をして、荷物は残らず出させたが、申の下刻には中邸一面が火になって、山本も焼・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・源太夫は家康にこの話をして、何を言うにも年若の甚五郎であるから、上の思召しで助命していただければよし、もしかなわぬ事なら、人手にかけず打ち果たしてお詫びをしたいと言った。 家康はこれを聞いて、しばらく考えて言った。「そちが話を聞けば、甚・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・源太夫は家康にこの話をして、何を言うにも年若の甚五郎であるから、上の思召しで助命していただければよし、もしかなわぬ事なら、人手にかけず打ち果たしてお詫びをしたいと言った。 家康はこれを聞いて、しばらく考えて言った。「そちが話を聞けば、甚・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・苅る柴はわずかでも、汲む潮はいささかでも、人手を耗らすのは損でございます。わたくしがいいように計らってやりましょう」「それもそうか。損になることはわしも嫌いじゃ。どうにでも勝手にしておけ」大夫はこう言って脇へ向いた。 二郎は三の木戸・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・苅る柴はわずかでも、汲む潮はいささかでも、人手を耗らすのは損でございます。わたくしがいいように計らってやりましょう」「それもそうか。損になることはわしも嫌いじゃ。どうにでも勝手にしておけ」大夫はこう言って脇へ向いた。 二郎は三の木戸・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・そしてもらった銭は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。それも現金で物が買って食べられる時は、わたくしの工面のいい時で、たいていは借りたものを返して、またあとを借りたのでございます。それがお牢にはいってからは、仕事をせずに食べ・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
・・・そしてもらった銭は、いつも右から左へ人手に渡さなくてはなりませなんだ。それも現金で物が買って食べられる時は、わたくしの工面のいい時で、たいていは借りたものを返して、またあとを借りたのでございます。それがお牢にはいってからは、仕事をせずに食べ・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫