・・・箸と手ぬぐいの人形の影法師から幻燈映画へはあまりに大きな飛躍であった。見て来た人の説明を聞いても、自分の目で見るまでは、色彩のある絵画を映し出す影絵の存在を信ずる事ができなかった。そして始めて見た時の強い印象はかなり強烈なものであった。ホワ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・科学全体としての飛躍的な進歩はただ後者によって成さるると云っても過言ではない。 西鶴を生んだ日本に、西鶴型の科学者の出現を望むのは必ずしも空頼めでないはずであるが、ただそういう型の学者は時にアカデミーの咎めを受けて成敗される危険がないと・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・いくら心配しても、それだけの時間は、飛躍を許さないので、道太は朝まではどうかして工合よく眠ろうと思って、寝る用意にかかったが、まだ宵の口なので、ボーイは容易に仕度をしてくれそうになかった。 道太は少しずつ落ち著いてくると同時に、気持がく・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・たとえば議論の焦点がきまると、それを小野の方から飛躍させられて“そりゃァ、労働者の自由を束縛するというもんだ”という風に、手のつけようのないところへもってゆく。学生たちがそれをまた神棚から引きおろそうとして躍起になると、そのうち小野がだしぬ・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ また今を去ること三十余年、固め番とて非役の徒士に城門の番を命じたることあり。この門番は旧来足軽の職分たりしを、要路の者の考に、足軽は煩務にして徒士は無事なるゆえ、これを代用すべしといい、この考と、また一方には上士と下士との分界をなお明・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・人は一瞬にして氷雲の上に飛躍し大循環の風を従えて北に旅することもあれば、赤い花杯の下を行く蟻と語ることもできる。罪や、かなしみでさえそこでは聖くきれいにかがやいている。深い椈の森や、風や影、肉之草や、不思議な都会、ベーリング市まで続・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・汝等審に諸の悪業を作る。或は夜陰を以て、小禽の家に至る。時に小禽、既に終日日光に浴し、歌唄跳躍して疲労をなし、唯唯甘美の睡眠中にあり。汝等飛躍してこれを握む。利爪深くその身に入り、諸の小禽、痛苦又声を発するなし。則ちこれを裂きて擅にたんじき・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
愛ということばは、いつから人間の社会に発生したものでしょう。愛という言葉をもつようになった時期に、人類はともかく一つの飛躍をとげたと思います。なぜなら、人間のほかの生きものは、愛の感覚によって行動しても、愛という言葉の表象・・・ 宮本百合子 「愛」
・・・カメラのつかいかたを、実着にリアリスティックに一定していて、雰囲気の描写でもカメラの飛躍で捕えようとせず、描くべきものをつくってカメラをそれに向わせている態度である。こういう点も、私の素人目に安心が出来るし、将来大きい作品をつくって行く可能・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ 世界文学の範囲にひろく眺めて、ルポルタージュというジャンルは、社会層のテムポ速い飛躍と複雑の増大によって、確に来るべき文学に従前よりは重大な場所を占めるであろうと考えられる。 日本で報告文学が、小説以前の現実状況の報告文学としての・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
出典:青空文庫