・・・てこそこそこそこそ、逃げるようにおもてに出てひとりが三十三本三分三厘強ずつという見当で、一生けん命いい木をさがしましたが、大体もう前々からさがす位さがしてしまっていたのですから、いくらそこらをみんながひょいひょいかけまわっても、夕方までにた・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・みんな六つの瀬戸もののエボレットを飾り、てっぺんにはりがねの槍をつけた亜鉛のしゃっぽをかぶって、片脚でひょいひょいやって行くのです。そしていかにも恭一をばかにしたように、じろじろ横めでみて通りすぎます。 うなりもだんだん高くなって、いま・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・とひとりぶつぶつ言いながら、からだを深く折り曲げて眼一杯にみひらいて、足もとの砂利をねめまわしながら、兎のようにひょいひょいと、葛丸川の西岸の大きな河原をのぼって行った。両側はずいぶん嶮しい山だ。大学士は・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ ところが支那人のほうは大よろこびです。ひょいひょいと両脚をかわるがわるあげてとびあがり、ぽんぽんと手で足のうらをたたきました。その音はつづみのように、野原の遠くのほうまでひびきました。 それから支那人の大きな手が、いきなり山男の眼・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・すぐ、小走りに襖の際まで姿を現し、ひょいひょいと腰をかがめ、正直な赫ら顔を振って黒い一対の眼で対手の顔を下から覗き込み乍ら「はい、はい」と間違なく、あとの二つを繰返す。―― 気の毒な老婆は、降誕祭の朝でも、彼女の返事を一つで止め・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・反射的にひょいひょいいろいろ云う。ちっとも語調に真情がない、―― 軈て発車した。 私は眠い。一昨日那須温泉から帰って来、昨日一日買いものその他に歩き廻って又戻って行こうとしているのだから。それに窓外の風景もまだ平凡だ。僅かとろりとし・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・止り木から止り木へ、ひょいひょい身軽に移る度毎に、細く削った竹籠のすきから、巻いた柔かそうな胸毛の洩れる姿が、何ともいえず美くしかった。「いいわね」と私が云う。「僕等も何か飼ってみようか」 良人が云う。帰京すると、彼はいつの・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・「おれのう、もう掴まるか、もう掴まるかと思って、両手で鳥を抑えると、ひょいひょいと、うまい具合に鳥は逃げるんです。それで、とうとう学校が遅れて、着いてみたら、大雪を冠ったおれの教室は、雪崩でぺちゃんこに潰れて、中の生徒はみな死んでいまし・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫