・・・ この神田八段は大阪のピカ一棋師であるが、かつてしみじみ述懐して、――もし、自分が名人位挑戦者になれば、いや、挑戦者になりそうな形勢が見えれば、名人位を大阪にもって行かせるなと、全東京方棋師は協力し、全智を集注して自分に向って来るだろう・・・ 織田作之助 「東京文壇に与う」
・・・ 岩は次第に崩されて行った。ピカ/\光った黄銅鉱がはじけ飛ぶ毎に、その下から、平たくなった足やペシャンコにへしげた鑿岩機が現れてきた。折れた脚が見え出すと、ハッパをかけるにしのびなかった。「掘れ! 掘れ! 岩の下から掘って見ろ。」・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ 自働電話の送信器の数字盤が廻るときのカチカチ鳴る音と自働連続機のピカピカと光る豆電燈の瞬きもやはり同じような考えを応用して出来た機構の産物であると見れば見られなくはないであろう。 このように、二千年前の骨董の塵の中にも現代最新の発・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・……宵の明星が本丸の櫓の北角にピカと見え初むる時、遠き方より又蹄の音が昼と夜の境を破って白城の方へ近づいて来る。馬は総身に汗をかいて、白い泡を吹いているに、乗手は鞭を鳴らして口笛をふく。戦国のならい、ウィリアムは馬の背で人と成ったのである。・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ ピカデリー広場行の乗合自動車はかなくそでつまったような黒いロンドンを一方から走って来てビショップ町の出入口から心配げな顔つきをした僅の男女をしゃくい上げた。そして再び場末のごたごた中に驀進した。 デパアトメント・ストアだ。家具・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫