・・・政府でも火災の軽減を講究する学術的機関を設ける必要のあることは前述のとおりであるが、民衆一般にももう少し火災に関する科学的知識を普及させるのが急務であろうと思われる。少なくもさし当たり小学校中等学校の教程中に適当なる形において火災学初歩のよ・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・しかし科学者の多くはそれを目あてに不休の努力を続けている。もしそれが成効して生命の物理的説明がついたらどうであろう。 科学というものを知らずに毛ぎらいする人はそういう日をのろうかもしれない。しかし生命の不思議がほんとうに味わわれるのはそ・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・チュリップ、ヒヤシンス、ベコニヤなどもダリヤと同じく珍奇なる異草として尊まれていたが、いつか普及せられてコスモスの流行るころには、西河岸の地蔵尊、虎ノ門の金毘羅などの縁日にも、アセチリンの悪臭鼻を突く燈火の下に陳列されるようになっていた。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ 両国橋には不朽なる浮世絵の背景がある。柳橋は動しがたい伝説の権威を背負っている。それに対して自分は艶かしい意味においてしん橋の名を思出す時には、いつも明治の初年返咲きした第二の江戸を追想せねばならぬ。無論、実際よりもなお麗しくなお立派・・・ 永井荷風 「銀座」
・・・仏蘭西の地層から切出した石材のヴェルサイユは火事と暴風と白蟻との災禍を恐るる必要なく、時間の無限中に今ある如く不朽に残されるであろう。けれども我が木造の霊廟は已にこの間も隣接する増上寺の焔に脅かされた。凡ての物を滅して行く恐しい「時間」の力・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・我輩これを知らざるにあらずといえども、およそ今の日本国人として、現在の愉快、後世子孫の幸福は、何を以て最とするやと尋ねたらば、独立の体面を維持して日本国の栄名を不朽に伝うるのほかなかるべし。而してこの体面と栄名とを張るにいささかにても益すべ・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・レールの幅は狭軌で能率のわるい鉄道ながら、ともかく日本には明治以来鉄道が普及しているし、それと同じに天皇制軍国主義的国民教育というものが、明治以来全国にしみとおっています。これは、封建的な主従関係での忠義の感情にいきなりむすびついて「奉公」・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・は、啓蒙的な必要のためには、最もじかにその目的をもって書かれているそれらの紹介を集め、出版し、普及させるのが、能率的であり、活溌な方法であった。しかし、当時の「ナップ」指導部はそう考えず、作者自身も、そういう標題小説が、はたして可能であるか・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・ 即ち、その時の若さが不朽なのである。 ――○―― 小剣氏の様に又、鈴木氏の様にあまり物事がきっぱりきっぱりがすきと云う人は、私のきらいな人である。 あまりきっちりきっちりして居るところに驚くべき美がないと同・・・ 宮本百合子 「雨滴」
・・・は、何故今日まで不朽に生命を受けて居るか。 永遠に変らざる「真」がその一言の中にも輝いて居るからでは無いか。 ホーマーもミルトンも、只「真」の一字がある故に尊いではないか。 孔子、基督、その他あらゆる人々の頭上高く、真の光りに被・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
出典:青空文庫