・・・偽証罪として起訴された石川、金の二人の被告を加えた十一名と、自由法曹団の弁護人たちが、七十歳の布施辰治を先頭として、はげしく検事の取調べの不当を非難した第一日の公判廷で、竹内被告の弁護人鍛冶だけが「個々の被告の人権を尊重し、被告個人の特殊性・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・準備委員会はすぐ抗議団として、弁護士布施辰治、司会者等を築地署へ抗議のために送った。高等主任に会い、折から居合わせた警視庁の高等係とも掛け合ったが、彼等は何と卑劣でしょう。自分等が一旦法律に従って許可した余興だけさえ、もう許可はとり消したの・・・ 宮本百合子 「日本プロレタリア文化連盟『働く婦人』を守れ!」
・・・その上に伏せてある捲物の柄杓に、やんまが一疋止まって、羽を山形に垂れて動かずにいる。 一時立つ。二時立つ。もう午を過ぎた。食事の支度は女中に言いつけてあるが、姑が食べると言われるか、どうだかわからぬと思って、よめは聞きに行こうと思いなが・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・最初関係するところは非常に注意深く伏せてあった。従ってこの作の主人公は、世間の思わくの前に苦しんでいるのであって、おのれの良心の前に苦しんでいるのではない。もし『菊と刀』の著者がこの作を読んだのであったならば、この個所を有名な証拠として引用・・・ 和辻哲郎 「藤村の個性」
出典:青空文庫