・・・ 長い線路の上にはじめ等間隔に配列された電車が、運転につれて間隔に不同を生じる。そうして遅れるものと進むものとが統計上三または四の平均週期で現われるとすると、若干時の後に実現される運転状況は、私がこの編の初めに記述したとだいたい同じよう・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・例えば、白ばらの莟の頭の少し開きかかった底の方に、ほのかな紅色の浮動している工合などでも、そういう感じを与える。デリベレイトに狙いすましては一筆ずつ著けて行ったものだろうと想像される。そういう点で、これらの絵は、有り来りの油絵よりは、むしろ・・・ 寺田寅彦 「二科会展覧会雑感」
・・・しかるに鉢の底面からは相当離れた所に固定しているコップは不動であるから、そこで相互間の週期的の摩擦運動が起こり、そのためにちょうど弓でクラドニ板をこする場合に似た事がらが生ずるのであるらしい。さてこれだけならば問題ははなはだ平凡であるが、こ・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・それが週期的ないし非週期的の異同の波によって歳々の不同を示す。 この平均温度というものが往々誤解されるものである。どうかするとその月にその温度の日が最も多いという意見に思いちがえられるのである。しかし実際は月の内でその月の平均温度を示し・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・長いガラスの円筒の直径をカリパーのようなもので種々の点で測らせ、その結果を適当な尺度に図示して径の不同を目立たせて見るのもよい。これはつまらぬ事件のようであるが、実際自分の経験では存外生徒の実験的趣味を喚起する効果があるようである。あるいは・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・プトレミー派の学者は地球を不動と考えて、太陽は勿論其の他の遊星も皆その周囲を運行するものと考えた。後にコペルニカスの地動説が出て前説よりも遥かに簡単に天体の運動を説明し得る事が分り、ケプレル、ニュートンを経ていよいよ簡単な運動の方則で天体の・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・ドイツ書の装幀なり印刷なりにはドイツ人のあらゆる歴史と切り離す事のできないものがあると同様にフランスの本にはどうしてもパリジアンとパリジェンヌのにおいが浮動している。たとえ一字も読めない人に見せてもこの著しい区別は感じられないではいられまい・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・忠義一図の御飯焚お悦は、お家に不吉のある兆と信じて夜明に井戸の水を浴びて、不動様を念じた為めに風邪を引いた。田崎が事の次第を聞付けて父に密告したので、お悦は可哀そうに、馬鹿をするにも程があるとて、厳しいお小言を頂戴した始末。私の乳母は母上と・・・ 永井荷風 「狐」
・・・ばかり鳴し立てている櫓舟に乗り、石川島を向うに望んで越前堀に添い、やがて、引汐上汐の波にゆられながら、印度洋でも横断するようにやっとの事で永代橋の河下を横ぎり、越中島から蛤町の堀割に這入るのであった。不動様のお三日という午過ぎなぞ参詣戻りの・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・○祐天なぞでも、あれだけの思いつきがあれば、もう少しハイカラにできる訳だ。不動の御利益が蛮からなんじゃない。神が出ても仏が出てもいっこう差支ないが、たかが如是我聞の一二句で、あれ程の人騒がせをやるのみならず、不動様まで騒がせるのは、開明・・・ 夏目漱石 「明治座の所感を虚子君に問れて」
出典:青空文庫