・・・の名に奮起して身を文壇に投ずる志を立てた。例えば二葉亭の如き当時の造詣はむしろ坪内君を凌ぐに足るほどであったが、ツマリ「文学士春の屋おぼろ」のために崛起したので、坪内君莫かっせばあるいは小説を書く気には一生ならなかったかも知れぬ。また『浮雲・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・ 反戦文学は、こゝに於て、戦争が何のために行われるか、その真相を曝露し、その真実を民衆に伝え、民衆をして奮起させるべきである。泥棒どもが、なお安全に、最も悪い泥棒制度を維持しようがためにやっていることを白日の下に曝す必要がある。 吾・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・女性の一支持が、作家をかく迄も、いちじるしく奮起させるとは、思いも及ばなかった事でした。人の話に依りますと、ユーゴー、バルザックほどの大家でも、すべて女性の保護と慰藉のおかげで、数多い傑作をものしたのだそうです。私も貴下を、及ばずながらお助・・・ 太宰治 「恥」
・・・き、諸卿の素直なる御賛同を得たるも、教訓する者みずから率先して実行せざれば、あたら卓説も瓦礫に等しく意味無きものと相成るべく、老生もとより愚昧と雖も教えて責を負わざる無反省の教師にては無之、昨夕、老骨奮起一番して弓の道場を訪れ申候。悲しい哉・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・あなたもどうか、奮起して下さい。私は正気です。落ちついています。私の言う事は、信じなければいけません。」 まぎれもない狂人である。満洲で苦労の結果の発狂であろう。或いは外地の悪質の性病に犯されたせいかも知れない。気の毒とも可哀想とも悲惨・・・ 太宰治 「女神」
・・・ ナポリを見物に行ったついでに、ほど遠からぬポツオリの旧火口とその中にある噴気口を見に行った。電車をおりてベデカをたよりに尋ねて行こうとすると、すぐに一人の案内者が追いすがって来てしきりにすすめる。まだ三十にならないかと思われるあま・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・云わば遠からず爆発しようとする火山の活動のエネルギーがわずかに小噴気口の噴煙や微弱な局部地震となって現われていたようなものであった。それにしてもそのために俳句や漢詩の形式が選ばれたという事は勿論偶然ではなかったに相違ない。先生の自然観人世観・・・ 寺田寅彦 「夏目先生の俳句と漢詩」
・・・さらにこの活気に柔らかみを添えるのは、鉄をたたく音の中に交じってザブ/\ザブ/\と水のあふれ出すような音と、噴気孔から蒸気の吹き出すような、もちろんかすかであるが底に強い力と熱とのこもった音が始まる。このようないろいろの騒がしい音はしばらく・・・ 寺田寅彦 「病院の夜明けの物音」
・・・今や我々東亜民族は一緒に東亜文化の理念を提げて、世界史的に奮起せなければならない。而して一つの特殊的世界と云うものが構成せられるには、その中心となって、その課題を担うて立つものがなければならない。東亜に於て、今日それは我日本の外にない。昔、・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・ ノルデ奮起す。水の不足。九、ノルデがこさえたトランプのカードを、みんなは春は桃いろに夏は青くした。 恋人アルネとの結婚……夕方。十、ノルデはみんなの仕事をもっとらくにしようと考えた。そんなことをしなくってもいいよ。 お・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
出典:青空文庫