・・・ならば、或いは、心が臆して来て、出せなくなるのではないかと思い、深夜、あの手紙を持って野道を三丁ほど、煙草屋の前のポストまで行って来ましたが、ひどく明るい月夜で、雲が、食べられるお菓子の綿のように白くふんわり空に浮いていて、深夜でもやっぱり・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・そのピンクの靄がゆらゆら流れて、木立の間にもぐっていったり、路の上を歩いたり、草原を撫でたり、そうして、私のからだを、ふんわり包んでしまいます。私の髪の毛一本一本まで、ピンクの光は、そっと幽かにてらして、そうしてやわらかく撫でてくれます。そ・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ラプンツェルは香水の風呂にいれられ、美しい軽いドレスを着せられ、それから、全身が埋ってしまうほど厚く、ふんわりした蒲団に寝かされ、寝息も立てぬくらいの深い眠りに落ちました。ずいぶん永いこと眠り、やがて熟し切った無花果が自然にぽたりと枝から離・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 元禄踊りの絵屏風をさかしまに悲しく立て廻した中にしなよく友禅縮緬がふんわりと妹の身を被うて居る。「常日頃から着たい着たいってねえ云って居た友禅なのよ華ちゃん、今着て居るのが――分って? いらえもなく初秋の夜の最中に糸蝋・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ しとやかにゆるい諧調は千世子の心をふんわりと抱えて揺籃の裡に居る様な気持にした。 篤はしずかに歌をつけた。 低いゆーらりゆーらりとした歌に千世子は涙をさそわれる様な心に柔さが出て来た。 ほんとうに好い曲ですね。・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・何故って、あちらの人達はそういう仕事をする場合に皆なの心が集って、ふんわりと大きな空気を造ります、みんなの感情が本当によく一致するからでありましょうね。それから戦争中でしたから自由公債というのが度々募集されました。自由公債とはアメリカの政府・・・ 宮本百合子 「わたくしの大好きなアメリカの少女」
出典:青空文庫