・・・跡はただ前後左右に、木馬が跳ねたり、馬車が躍ったり、然らずんば喇叭がぶかぶかいったり、太鼓がどんどん鳴っているだけなんだ。――僕はつらつらそう思ったね。これは人生の象徴だ。我々は皆同じように実生活の木馬に乗せられているから、時たま『幸福』に・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・低味の畦道に敷ならべたスリッパ材はぶかぶかと水のために浮き上って、その間から真菰が長く延びて出た。蝌斗が畑の中を泳ぎ廻ったりした。郭公が森の中で淋しく啼いた。小豆を板の上に遠くでころがすような雨の音が朝から晩まで聞えて、それが小休むと湿気を・・・ 有島武郎 「カインの末裔」
・・・それがソヴェト同盟の大きい男の作業服を着たのだから、手先はだぶだぶだし、靴はぶかぶかだし、子供の化物のような恰好なのだ。「工合がわるくないですか?」 ドミトロフ君は心配気だ。「平気です。出かけましょうか」「配燈室」へ入って行・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
出典:青空文庫