・・・然るに今新に書を著わし、盗賊又は乱暴者あらば之を取押えたる上にて、打つなり斬るなり思う存分にして懲らしめよ。況んや親の敵は不倶戴天の讐なり。政府の手を煩わすに及ばず、孝子の義務として之を討取る可し。曾我の五郎十郎こそ千載の誉れ、末代の手本な・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・秋田家いなごまろうるさく出てとぶ秋のひよりよろこび人豆を打つ酉(詠十二時夕貌の花しらじらと咲めぐる賤が伏屋に馬洗ひをり松戸にて口よりいづるままにふくろふの糊すりおけと呼ぶ声・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ たちまち杜はしずかになって、ただおびえて脚をふみはずした若い水兵が、びっくりして眼をさまして、があと一発、ねぼけ声の大砲を撃つだけでした。 ところが烏の大尉は、眼が冴えて眠れませんでした。「おれはあした戦死するのだ。」大尉は呟・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・まるで奈良のだいぶつさまにさんけいするみんなの絵のようだと一郎はおもいました。別当がこんどは、革鞭を二三べん、ひゅうぱちっ、ひゅう、ぱちっと鳴らしました。 空が青くすみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。「裁判ももう今・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・一太は素足だから、べたべた草履が踵を打つ音をさせながら歩いた。「ね、おっかちゃん、あんな家却って駄目なんだよ。女中の奴がね、いきなりいりませんて断っちまやがるよ」 一太が賢そうな声を潜めて母に教えた。そこでは、桜の葉が散っている門内・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・りにいねちゃんのところへよったら、やっぱりよかったねとよろこんで、鶴さん[自注2]が何とかいったら、いい機嫌なのによしなさいよと云うから、私は平気さ、何と云おうと鶴さんのいうことなら自分の手足で自分をぶつようにしか感じやしないと笑いました。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ ┌───────────────┐ │子供をぶつな │ │ ぶつ前に子供の友に相談しろ│ └───────────────┘ モスクワ市中の壁や広告塔に近頃そういうプラカートがしきりに見え・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 打つ真似をする。藍染の湯帷子の袖が翻る。「早く飲みましょう」「そうそう。飲みに来たのだったわ」「忘れていたの」「ええ」「まあ、いやだ」 手ん手に懐を捜って杯を取り出した。 青白い光が七本の手から流れる。・・・ 森鴎外 「杯」
・・・人を打つ。どうかすると小刀で衝く。窃盗をする。詐偽をする。強盗もする。そのくせなかなかよい奴であった。女房にはひどく可哀がられていた。女房はもとけちな女中奉公をしていたもので十七になるまでは貧乏な人達を主人にして勤めたのだ。 ある日曜日・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・「よしよし、じゃ、もう打つのは止そう。」「あなた、もうあたし、駄目なんだから。」と妻はいった。「いや、まだ、まだ。」「あたし、苦しい。」「うむ、もう直ぐ、癒る。大丈夫だ。」「どうして、あたしを、死なしてくれないんだろ・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫